代表者から後継者へのみなし贈与に該当
令和5年度改正における相続時精算課税制度の見直しにより
相続時精算課税制度について、相続財産への加算不要の110万円の基礎控除が創設等されました
(令和6年1月1日以後の贈与等に適用)。
基本的に、納税者有利の改正であるため、同制度を適用した生前贈与を検討するケース
が多くなることが想定されます。
同制度は、相続財産への加算対象額が贈与財産の「贈与時の時価」で固定されるため
事業承継に伴う株式の贈与時に活用されることも多いですが
予期せぬ“みなし贈与”が存在する点に留意する必要があります。
例えば、会社の代表者(特定贈与者)から今後の値上がりが見込まれる株式を
後継者(精算課税適用者)に贈与する場合において
代表者が会社に貸し付けていた金銭(貸付金債権)の放棄に伴い生じた株価上昇分は
代表者から後継者へのみなし贈与として、相続財産への加算対象額に含まれることになります。
例えば
例えば、
①同族会社X社(非上場)に金銭を貸し付けている代表者(父・特定贈与者)が
②後継者(子・精算課税適用者)にX社株式(贈与時の時価3,000)を贈与した上で
③代表者がX社に係る貸付金債権を放棄し
④X社に生じた債務免除益によりX社株式の価額が500上昇した
(贈与時の時価3,000→債権放棄時の価額3,500)とする。
この場合、代表者がX社に係る貸付金債権を放棄したことにより生じた
X社の債務免除益(経済的利益)は、X社が代表者から贈与で取得したものとされます
そして、同債権放棄に伴うX社株式の価額の上昇分500は、
“株主である後継者が代表者(債権放棄をした者)から贈与により取得したもの”と取り扱われます
つまり、相続財産への加算対象額は、通常であれば、X社株式の贈与時の時価3,000であるものの
債権放棄に伴うX社株式の価額の上昇分500も、後継者が“みなし贈与”により取得したものと取り扱われるため
結果、相続財産への加算対象額は3,500(X社株式の贈与時の時価3,000+上昇分500)となります
相続時精算課税制度を適用している場合において
債権放棄に伴う株式の価額の上昇分が相続財産への加算対象額に含まれることは
裁決事例(大裁(所・諸)令3第37号、令和4年3月16日裁決、未公表)でも示されており
同制度の適用時には改めて注意が必要となります