代償分割が行われた場合における配偶者に対する相続税額の軽減の規定の適用可否
[相談]
甲株式会社の前社長(父)が死亡し、その妻(A)と長男(B)の2名が
その遺産を相続することになりました。
AとBによる遺産分割協議は相続税の申告期限までに整い、その結果
亡父の遺産である甲株式会社の株式(相続税評価額3億円)は長男(B)が
そのすべてを相続することとなりましたが、代わりに、B はAに対し
その2分の1相当である1億5,000万円を現金で渡しています(代償分割)。
今回のように代償分割が行われた場合であっても、Aについて
相続税法上の配偶者に対する相続税額の軽減の規定を適用することはできるのでしょうか。
[回答]
ご相談の場合、配偶者に対する相続税額の軽減の規定は適用可能と考えられます。
[解説]
1.代償分割とは
代償分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が
相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し
その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務
(代償債務)を負担する分割の方法をいいます。
このとき、代償財産の交付を受けた人(今回のご相談の場合は、B)の相続税の課税価格は
原則として、相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた
代償財産の価額の合計額となり、代償財産の交付をした者(今回のご相談の場合は、A)
の相続税の課税価格は、原則として、相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から
交付をした代償財産の価額を控除した金額となります。
2.相続税法上の配偶者に対する相続税額の軽減制度の概要
相続税法上の配偶者に対する相続税額の軽減とは
被相続人の配偶者がその被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には
その配偶者が取得した財産については、①1億6,000万円と②配偶者の法定相続分相当額の
どちらか多い金額までは、原則として、配偶者に相続税はかからないという制度です。
ただし、相続税の申告期限までに「分割」されていない財産は
原則として、この税額軽減制度の対象にはなりません。
上記の「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により
取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい
その分割の方法が現物分割、代償分割もしくは換価分割であるか
またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないこととされています。
したがって、今回のご相談における代償分割された財産は
配偶者に対する相続税額の規定の適用要件における「分割された財産」に該当し
その財産は、配偶者に対する相続税額の軽減制度の対象となります。
[参考]
相法11の2、19の2、相基通11の2-9、19の2-7、19の2-8など
代償分割が行われた場合の相続税・贈与税の課税関係
[相談]
甲株式会社の前社長(父)が死亡し、現社長(A:長男)とB(長女)
の2名がその遺産を相続することになりました。
AとBによる遺産分割協議の結果、甲株式会社の株式(相続税評価額1億円)は
Aがそのすべてを相続することとなりましたが、代わりに、AはBに対し
その2分の1相当である5,000万円を現金で渡しています(代償分割)。
この場合、Bが受け取った現金5,000万円については、相続税と贈与税
どちらの課税対象となるのでしょうか。
[回答]
Bが受け取った現金5,000万円は、相続税の課税対象となります。
[解説]
1.代償分割とは
代償分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が
相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し
その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務
(代償債務)を負担する分割の方法をいいます。
2.相続税法上の「分割」の意義
相続税法上の「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により
取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい
その分割の方法が現物分割、代償分割もしくは換価分割(※)であるか
またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割
であるかを問わないこととされています。
- ※換価分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が
- 相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部を金銭に換価し
- その換価代金を分割する方法をいいます。
したがって、今回のご相談の場合、Bが受け取った現金5,000万円については
相続税が課税されることとなります。
なお、代償財産の価額は、原則として、代償分割の対象となった財産を現物で
取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(代償債務)
の額の相続開始の時における金額によるものとされていますので、ご留意ください。
相続する財産より引き継ぐ債務の方が多い場合
[相談]
父が経営している会社を数年前に私が引き継ぎ
現在は父が会長で、私が社長になっています。
父は会社から5億円の資金を借り入れ
不動産投資(賃貸ビルの投資)をしています。
この不動産も会社経営に影響することから、父が亡くなったときには
会社からの借金とともにこの不動産を相続する予定です。
現状、不動産の財産評価額として、賃貸ビルが5,000万円
賃貸ビルの敷地部分は2億円となります。
他方、借金の残高は4億円あると聞いています。
今、父の相続が開始した場合、2.5億円(5,000万円+2億円)の財産に対して
借金4億円を相続することとなり、引き継ぐ債務の方が多くなります。このようなとき
他の相続人の相続財産から引ききれない債務1.5億円(4億円-2.5億円)を控除することができるのでしょうか?
[回答]
ご相談のような相続した財産よりも引き継ぐ債務の方が大きい場合
他の相続人の相続財産から引ききれない債務を控除することはできません。
[詳細]
1.納付すべき相続税額の計算
納付すべき相続税額の計算は、まず課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き
その差額(課税遺産総額)に対して、法定相続人ごとに法定相続分に従って
取得したものとして“相続税の総額”を計算します。
この相続税の総額を実際に取得した人ごとに割り振り、納付すべき相続税額を計算します。
2.課税価格の計算
上記1.の計算において、まず課税価格の合計額を計算することになりますが
「課税価格の合計額」とは、相続又は遺贈などにより財産を取得した人ごとに
計算した課税価格の合計額を指します。
課税価格は、各人ごとに以下の算式により計算します。
相続又は遺贈により取得した財産の価額 + みなし相続等により取得した財産の価額 ー 非課税財産の価額 + 相続時精算課税に係る贈与財産の価額 ー 債務及び葬式費用の額 = 純資産価額(赤字のときは0) |
純資産価額 + 生前贈与加算 = 課税価格(1,000円未満切捨て) |
上記のとおり、各人ごとに課税価格を計算する過程において
純資産価額の計算時に赤字(マイナス)となった場合には「0」となることから
マイナス部分を他の相続人の相続財産から差し引くことはできません。
ご相談の場合、相続財産から引ききれない債務1.5億円は
純資産価額の計算において0円となりますので
他の相続人の相続財産から差し引くことはできません。
また、仮にご相談者様が生前贈与加算を活用して生前贈与を実行したとしても
相続財産から引ききれない債務1.5億円を生前贈与加算分と相殺することもできませんので、ご注意ください。
改正後の相続時精算課税制度/災害による被害が発生した場合
[相談]
相続時精算課税制度の使い勝手が良くなったと聞いて、活用を検討しています。
ただ、何十年も前の贈与について、相続時に加算することを考えると二の足を踏んでいます。
たとえば相続時精算課税制度を利用して生前贈与していた建物について
受贈者が所有している間に災害により被害が発生した場合でも
贈与時の価額を相続時に加算しなければならないのでしょうか?
[回答]
確かにご懸念のとおり
何十年前の贈与であっても相続時精算課税制度を適用した場合には
贈与時の価額を相続時に加算する必要が生じます。
ただし、災害による被害については、令和5年度税制改正により
一定の控除が受けられる改正がされています。
[詳細]
1.相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、贈与を受けたときの贈与税の計算において
自ら選択することで適用することができる制度です。
一度選択した後は、暦年課税を選択することはできません。
また、贈与者が亡くなった場合には
相続時精算課税制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の価額)の
合計額を相続財産として、相続等により取得した他の財産と合算して
相続税を計算した上で、すでに納めた贈与税額がある場合には
相続税額から控除して相続税額を算出します。
その際、控除しきれない贈与税額があるときは
相続税の申告をすることで還付を受けることができます。
2.令和5年度税制改正
令和5年度税制改正により、相続時精算課税制度が見直されました。
ご相談の内容ですと、以下の改正が該当します。
相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した一定の土地又は建物が
当該贈与の日から当該特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に
災害によって一定の被害を受けた場合には
当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる当該土地又は建物の価額は
当該贈与の時における価額から当該価額のうち
当該災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額とする
この改正は、令和6年(2024年)1月1日以後に生ずる災害により
被害を受ける場合について適用されます。
つまり、令和5年(2023年)12月31日以前の贈与であっても
適用対象となる点に注意しましょう。
3.ご相談の内容について
ご相談は、相続時精算課税制度を利用して生前贈与していた建物について
受贈者が所有している間に災害により被害が発生した場合でも
贈与時の価額を相続時に加算するのか、になります。
この点は上記2.にあるとおり、一定の被害を受けた場合には
贈与時の価額からその災害による被災価額を控除することができます。
この場合の“一定の被害”とは、その建物の想定価額(※1)のうちに
その建物の被災価額(※2)の占める割合が10%以上となる被害をいいます。
- ※1 想定価額…その建物の災害発生日における一定の算式により求めた価額
- ※2 被災価額…被害額から保険金などにより補塡される金額を差し引いた金額(建物の想定価額が限度)
なお、この控除を適用するには、別途手続が必要となります。
この他、災害減免法による贈与税の軽減等の適用との重複適用はできないなど
適用に関しては留意点があります。
誤りやすい事例/未分割であった相続財産から生じた不動産所得
大阪国税局が作成した「個人課税関係 令和4年版 誤りやすい事例 所得税法」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、準確定申告で実務上間違いが多い事例の紹介です
誤った取扱い
未分割の相続財産から生ずる不動産所得について、法定相続分で申告したが
後日、法定相続分と異なる遺産分割が行われた場合は
相続時に遡及して是正しなければならないとした。
正しい取扱い
未分割の相続財産(不動産)から生ずる収入は、遺産とは別個のものであって
法定相続人各人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものであるから
その帰属につき、事後の遺産分割の影響を受けることはない(最高裁平17.9.8判決)。
なお
遺産分割確定日以後の不動産収入についてはその遺産分割による相続分
により申告することとなる。
相続人不明の場合の対処
[相談]
95歳の祖母が他界しました。戸籍を調べたところ
祖母には1歳で養子となり転籍した妹がいることが分かりました。
存命であれば90歳になりますが、転籍先の戸籍も存在せず
市役所より証明書(行政証明を発行できないことの理由書)を受領しました。
法務局にて法定相続情報一覧図の作成を試みましたが
相続人不明につき受付ができないとの返答でした。
この場合、どのように対処したらよいでしょうか?
[回答]
件につきましては、失踪宣告の申立てあるいは
不在者財産管理人の選任による対応を採らざるを得ないと考えます。
なお、失踪宣告の申立てにあたっては
通常、失踪者の最後の住所が判明する資料(戸籍の附票、住民票等)が必要になりますが
本件ではその提出が困難であることから
上記の市役所から受領した証明書を添付の上、家庭裁判所に対して
失踪宣告申立書に住所不定である理由(これ以上の調査が不可能である点も含めて)
を丁寧に説明する必要があると思われます。
説明を通じ家庭裁判所の理解を求めることで
失踪宣告が認められる可能性はあると考えます。
いつまで適用できますか?/空き家の3,000万円特別控除
[相談]
父が生前住んでいた家(私にとって実家)を相続することになったのですが
相続人である子3人とも自宅を所有していることもあり、誰も欲しがりません。
そのため一旦、子3人の共有名義とし、売却後に売却代金(諸費用を除いた手取分)
を等分することになりそうです。
たしか、相続した居住用財産を一定期間内に売った場合は
特別控除が適用できると聞いています。この制度は当分の間、適用できるでしょうか?
[回答]
ご相談の特別控除(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)
については、令和5年度税制改正で一部見直しの上、適用期限が4年延長されました。
そのため、2027年(令和9年)12月31日までの間に売って
一定の要件に該当することで当該制度を利用することができます。
[詳細]
1.被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例とは
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例とは
相続又は遺贈により取得した一定の被相続人の居住用家屋又はその敷地等
(以下、空き家)を、一定期間内に売り、一定の要件に該当するときに
所得税の計算上、譲渡所得の金額から最高で3,000万円まで控除することができる制度です
(以下、空き家の3,000万円特別控除)。
一定の要件とは、主として次のとおりです。
- (1)売却対象となった空き家について、一定の要件に該当していること
- (2)空き家を取得(家屋と敷地の両方を取得)した人が売っていること
- (3)相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- (4)売却代金が1億円以下であること
- (5)売却対象となった空き家について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除などの、一定の特例の適用を受けていないこと
- (6)この空き家について、すでにこの特例の適用を受けていないこと
- (7)親子や夫婦、内縁関係者など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと
2.令和5年度税制改正
令和5年度税制改正において、空き家の3,000万円特別控除は主に次の改正がされた上で
適用期限が4年延長されました。これにより改正後の適用期限は
2027年(令和9年)12月31日となりました。
- 適用対象となる空き家の要件について、一部見直しがされた
- 空き家を取得した相続人の数が3人以上である場合は、特別控除額を最高で2,000万円とする
この改正は、2024年(令和6年)1月1日以後に行う空き家の売却について適用されます。
3.ご相談のケース
ご相談のケースは、ご実家が一定の要件に該当し、かつ
一定の要件に該当する売却を行っていれば、2027年12月31日までの売却について
空き家の3,000万円特別控除の適用は受けられるものと思われます。売却日の留意点として
この改正による適用期限よりも前に「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日」
が到来する場合には、その到来する日までに売却する必要があります。
その点にご注意ください。
なお、2024年1月1日以後の空き家の売却については
上記改正のとおり、「空き家を取得した相続人の数が3人以上である場合は
特別控除額を最高で2,000万円とする」こととなります。
ご相談のケースはまさにこの制限の対象となるため
2023年中の売却であれば3人で最高9,000万円(3,000万円×3人)控除できるものが
2024年以降の売却になると最高6,000万円(2,000万円×3人)の控除に減ります。
この点もご留意いただきながら、売却時期をご検討してください
改正後の相続時精算課税制度/110万円の基礎控除
[相談]
先日、ある相続セミナーに参加したところ
令和6年(2024年)1月1日以後の贈与について相続時精算課税制度を適用した場合
毎年110万円までは贈与税もかからず
将来の相続でも加算する必要がないと聞きました。本当でしょうか?
[回答]
令和5年度税制改正で相続時精算課税制度が見直され
令和6年(2024年)1月1日以後の贈与について特別控除の2,500万円だけでなく
毎年基礎控除として110万円を控除することができるようになりました。
そのため、ご相談のとおり、毎年110万円までは贈与税が課税されません。
また、将来の相続時において加算することとなる金額は
この基礎控除を控除した残額となるため、毎年の贈与が110万円に満たない場合には
結果として加算する金額がないこととなります。
[詳細]
1.改正前の相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、贈与を受けたときの贈与税の計算において
自ら選択することで適用することができる制度です。
改正前における制度の特徴としては、主に以下のとおりです。
- 通常の贈与税の計算(暦年課税による計算)とは違い、原則
- この制度を選択して贈与を受けた財産の合計額が累積で2,500万円を
- 超えるまで贈与税は課されず超えた段階から一律20%の税率で贈与税が課されます。
- 暦年課税とは違い、基礎控除はありません。この制度を適用することができるのは
- 原則、父母又は祖父母から贈与を受けた子又は孫であり
- それぞれに年齢制限があります。
- この制度を選択した場合には、その後の相続時精算課税に係る贈与者
- (以下、特定贈与者)からの贈与については
- 相続時精算課税制度を適用して贈与税の計算をしなければなりません。
- 特定贈与者が亡くなった場合には、相続時精算課税制度を適用した
- 贈与財産の価額(贈与時の価額)の合計額を相続財産として
- 相続等により取得した他の財産と合算して相続税を計算した上で
- すでに納めた贈与税額がある場合には、相続税額から控除して相続税額を算出します。
- その際、控除しきれない贈与税額があるときは
- 相続税の申告をすることで還付を受けることができます。
2.令和5年度税制改正
令和5年度税制改正により、相続時精算課税制度が見直されました。
ご相談の内容ですと、以下の改正が該当します。
- 相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した
- 財産に係るその年分の贈与税については、改正前の基礎控除とは別途
- 課税価格から基礎控除110万円を控除できることとする
- 特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる
- 当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は
- 上記の控除をした後の残額とする
この改正は、令和6年(2024年)1月1日以後に
贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。
3.ご相談の内容について
ご質問は、以下の真否を問うものでした。
- ①改正後の相続時精算課税制度について、毎年110万円までなら贈与税が課税されない
- ②改正後の相続時精算課税制度について、毎年110万円までなら
- 将来の相続において加算する必要がない
上記①については、上記2.にあるとおり
改正後は課税価格から基礎控除110万円を控除することができるため
毎年110万円までの贈与について、贈与税はかかりません。
また相続時精算課税制度は相続時において相続財産に加算して
相続税額を計算することになりますが、上記②についても上記2.にあるとおり
改正後は加算する額は基礎控除110万円を控除した後の残額となることから
毎年110万円までの贈与について加算する金額がない、ということになります。
同じく令和5年度税制改正では、相続税の計算上
相続財産に加算される“生前贈与加算”の対象となる期間が3年から7年へと延長されました。
生前贈与加算の場合に加算される贈与財産の額は
基礎控除110万円を控除する前の金額であるため
過去の贈与が毎年110万円未満であっても基本的には控除前の金額を加算することとなります。
そういった意味において、相続時精算課税制度を利用した節税は
今後検討する余地があるのかもしれません。
保険料贈与の活用
[相談]
私の財産総額は約10億円です。相続対策として子(社会人)に対する現金贈与を
検討していましたが、贈与したお金が有効に活用されないことを懸念し
なかなか実行に踏み切れない状況です。 こうした状況で、金融機関に紹介された
コンサルタントから保険料贈与の提案を受けました。 贈与する資金の使途を明確にでき
相続発生時は死亡保険金を納税資金として活用できる点でも有効と説明を受けました。
贈与金額(保険料相当額)は相続税率や贈与税率などを考慮の上
以下の提案をいただいています。
提案内容について注意事項等があれば教えてください。
【提案内容】
- 契約者、死亡保険金受取人:子
- 被保険者:私
- 保険種類:終身保険
- 保険金額:3,000万円
- 年間保険料:250万円(10年払込)
[回答]
今回の提案内容の場合、贈与する資金の使途を明確にすることができるため
資金の使い込み防止にも有効と思われます。
ただし、元本割れの可能性など留意すべき点がいくつかありますのでご注意ください。
[詳細]
ご相談の提案内容は、コンサルタントからの説明のとおり
毎年相談者様からお子様に保険料相当額を贈与し
お子様が契約者として保険料を支払います。
相談者様が亡くなった時は、お子様が死亡保険金を受け取り
支払われた死亡保険金を納税資金として活用することができます。
また贈与された資金の使途が明確になるため
懸念されている資金の使い込み防止にも有効です。
保険料贈与を活用する際の注意点
保険料贈与を活用する際の注意点は、以下のとおりです。
(1)元本割れの可能性
解約をする場合の意思決定者は契約者(お子様)となります。
保険料払込期間中に途中解約をした場合は、元本割れとなる可能性があります。
保険料贈与を行う目的、途中解約時のリスクを
契約者(お子様)自身が正しく認識した上で、手続きを行うようにしましょう。
また、外貨建て保険や変額保険を活用する場合は
為替変動や運用実績により死亡保険金や解約返戻金の受取金額が
変動する点にも注意が必要です。
(2)贈与の事実を明確にする
贈与の事実が確認できない場合、実質的な保険料負担者が
相談者様とみなされる可能性があります。
税務調査等により贈与が否認されないよう
下記の点に注意してください。
- ●贈与契約書を毎年作成する
- ●受贈者が贈与を受けたことを認識しており、受贈者自身で贈与財産の管理を行う
⇒贈与者は受贈者名義の銀行口座に振り込みを行う - ●受贈者名義の銀行口座から生命保険料を支払う
- ●保険料贈与で加入した契約の生命保険料控除を、贈与者(相談者様)が受けないこと
(3)死亡保険金に対する課税
契約者(保険料負担者)、保険金受取人=子、被保険者=相談者様の場合
死亡保険金は相続税ではなく子の所得税(一時所得)の対象となります。
親の財産総額が多いほど、相続税率は高くなります。
相続税率と所得税率を比較した場合、一般的には親の財産総額が多く
子の所得が少ないほど、税負担の観点では有効と考えられます。
ただし、相続税の計算においては
死亡保険金に対する非課税制度があります。
この制度も検討するとよいでしょう。
(4)生前贈与加算(相続財産としての加算)
ご相談者様の相続開始にあたり、お子様が相続または遺贈により財産を取得した場合
お亡くなりになった日から遡って3年(改正後は7年)間の贈与は相続税の対象となります。
この期間内に本件の保険料贈与があれば、相続税の対象となる点に注意してください。
贈与する保険料の適正額は
親の財産に対する相続税率や贈与する保険料に対する贈与税率
子の所得税率により異なります。
誤りやすい事例/結婚・子育て資金の非課税の特例を受けていた場合の相続税の加算
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例 相続税関係 令和4年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、結婚・子育て資金の贈与税の非課税の特例についてです。
誤った取扱い
孫は、祖父から令和2年4月に1,000万円の贈与を受け
結婚・子育て資金の非課税制度の適用を受けていたが
令和4年1月に祖父が死亡した。
死亡日における結婚・子育て資金口座の管理残額は300万円
(700万円は子育て資金として支出済み)であったため
相続税の計算にあたっては、管理残額300万円を相続財産に加算した。
また、受贈者(孫)は祖父の一親等の血族(その被相続人の直系卑属が相続開始前に死亡し
又は相続権を失ったため、代襲して相続人となったその被相続人の直系卑属を含む。)ではないので
相続税の計算にあたり、相続税額の2割に相当する金額を加算した。
なお、受贈者(孫)は祖父から相続又は遺贈により管理残額以外の財産を取得していない。
正しい取扱い
令和3年3月31日以前に贈与により取得した金額に係る管理残額については
受贈者が被相続人の一親等の血族に該当するか否かにかかわらず
当該管理残額に対応する相続税額について、相続税額の2割加算の規定(措法18)は適用されない
(令和3年改正法附則75⑤、令和3年改正令附則29⑦)。
したがって、事例の場合、管理残額300万円に対応する相続税額については
相続税額の加算は不要である。
ただし、令和3年4月1日以後に贈与者から金銭等を取得したものがある場合における
その取得分に対応する管理残額に相当する相続税額については
相続税額の2割加算の規定が適用される(措法70の2の3⑫)。
※教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の規定により
管理残額を相続又は遺贈により取得したものとみなされる場合の
管理残額に対応する相続税額についても同様となる(措法70の2の2⑫)。
いつの相続から改正が影響しますか?/生前贈与加算の改正
[相談]
生前に贈与した財産について、死亡の日からさかのぼって相続財産に加算
(以下、生前贈与加算)される期間が7年に延長されたと聞きました。
令和6年(2024年)からの適用だと雑誌に書いてありましたが
令和6年の相続から適用になるのでしょう?
[回答]
生前贈与加算の改正である、加算期間の3年超7年以内については
令和6年1月1日以後の贈与に係る相続税の計算から適用されます。
つまり、令和9年1月2日以後の相続から順次この改正の影響を受けることとなります。
[詳細]
1.生前贈与の加算
相続又は遺贈により財産を取得した人が、その相続開始前一定期間内に暦年課税に
係る贈与によって被相続人から取得した財産があるときは
その人の相続税の計算上、相続財産に当該財産の価額を加算します。
この場合の加算対象となる“一定期間内”とは、改正前は、3年以内
(その相続に係る被相続人の死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)
とされていました。
これが令和5年度税制改正により、7年以内に延長されました。
ただし、今般の改正部分である3年超7年以内に関しては
その間の生前贈与の価額の合計額から100万円を控除した残額が加算対象となります。
なお、“暦年課税”とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間のうちに
もらった(贈与を受けた)財産の合計額から基礎控除額(110万円)を
差し引いた残額に対して贈与税を計算する方式です。
2.生前贈与加算期間の推移
上記1.の令和5年度税制改正は、令和6年1月1日以後に贈与により
取得する財産に係る相続税から適用されることとなります。
具体的には、令和9年1月2日以後の相続から改正の影響を受けることとなり
徐々に加算する期間が延びていきます。
そして、令和13年1月1日以後の相続から「7年以内」となります。
相続税額の2割加算と孫養子
[相談]
先日、私の祖母が他界し、その祖母の遺産のうち一部を私(孫)が相続することになりました。
このような場合、私が納付する相続税額が一定額増額されるというルールがあると聞きましたので
そのルールの概要と、私がその適用対象となるのかについて教えてください。
なお、祖母の相続人は、私の父・叔父(2名とも祖母の実子で存命です)と
私(祖母と養子縁組をしています)の3名です。
[回答]
ご相談の場合、相続税額の2割加算の規定が適用されるものと考えられます。
詳細は下記解説をご参照ください。
[解説]
1.相続税額の2割加算の規定の概要
相続税法では、相続又は遺贈により財産を取得した人が
その相続又は遺贈に係る被相続人の1親等の血族(※1)及び配偶者以外
の人である場合においては、その人に係る相続税額は、その人について
算出した相続税額の20%に相当する金額を加算した金額とすると定められています
(相続税額の2割加算)。
- ※1 この1親等の血族には、その被相続人の直系卑属(※2)が相続開始以前に死亡し
- 又は相続権を失ったため、代襲して相続人となった(※3)
- その被相続人の直系卑属を含むと定められています。
- ※2 直系卑属とは、基準となる人(今回のご相談の場合は、祖母)からみて
- 子・孫・曾孫など、その基準となる人より後の世代で直通する
- 系統の親族のことをいいます。また、養子も含まれますが、(基準となる人の)
- 兄弟姉妹、甥、姪、子の配偶者などは含まれません。
- ※3 民法では、被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき
- 又は相続人の欠格事由の規定に該当し、もしくは廃除によって、その相続権を失ったときは
- その人の子がこれを代襲して相続人となると定められています(代襲相続)。
- ただし、被相続人の直系卑属でない人(被相続人と養子が、養子縁組をする前に生まれた孫
- (養子の子))は、代襲相続はできません。
2.被相続人の直系卑属が被相続人の養子(孫養子)となっている場合
養子が相続又は遺贈により被相続人である養親の財産を取得した場合においては
その養子は被相続人の1親等の法定血族(養子縁組による法律上の血族)として
原則として上記1.の相続税額の2割加算の規定の適用がないこととなります。
ただし、相続税法では、被相続人の直系卑属がその被相続人の養子となっている場合には
その被相続人の直系卑属が、相続開始以前に死亡し又は相続権を失ったため
代襲して相続人になっている場合を除き、相続税額の2割加算の規定が適用されると定められています。
したがって、今回のご相談の場合は、上記1.の相続税額の2割加算の規定が適用されるものと考えられます。
いつまで適用できますか?/空き家の3,000万円特別控除
[相談]
父が生前住んでいた家(私にとって実家)を相続することになったのですが
相続人である子3人とも自宅を所有していることもあり、誰も欲しがりません。
そのため一旦、子3人の共有名義とし、売却後に売却代金(諸費用を除いた手取分)
を等分することになりそうです。
たしか、相続した居住用財産を一定期間内に売った場合は
特別控除が適用できると聞いています。
この制度は当分の間、適用できるでしょうか?
[回答]
ご相談の特別控除(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)については
令和5年度税制改正で一部見直しの上、適用期限が4年延長されました。
そのため、2027年(令和9年)12月31日までの間に売って
一定の要件に該当することで当該制度を利用することができます。
[詳細]
1.被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例とは
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例とは
相続又は遺贈により取得した一定の被相続人の居住用家屋又はその敷地等
(以下、空き家)を、一定期間内に売り、一定の要件に該当するときに
所得税の計算上、譲渡所得の金額から最高で3,000万円まで控除することができる制度です
(以下、空き家の3,000万円特別控除)。
一定の要件とは、主として次のとおりです。
- (1)売却対象となった空き家について、一定の要件に該当していること
- (2)空き家を取得(家屋と敷地の両方を取得)した人が売っていること
- (3)相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- (4)売却代金が1億円以下であること
- (5)売却対象となった空き家について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除などの、一定の特例の適用を受けていないこと
- (6)この空き家について、すでにこの特例の適用を受けていないこと
- (7)親子や夫婦、内縁関係者など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと
2.令和5年度税制改正
令和5年度税制改正において、空き家の3,000万円特別控除は主に次の改正がされた上で
適用期限が4年延長されました。これにより改正後の適用期限は
2027年(令和9年)12月31日となりました。
- 適用対象となる空き家の要件について、一部見直しがされた
- 空き家を取得した相続人の数が3人以上である場合は、特別控除額を最高で2,000万円とする
- この改正は、2024年(令和6年)1月1日以後に行う空き家の売却について適用されます。
3.ご相談のケース
ご相談のケースは、ご実家が一定の要件に該当し、かつ
一定の要件に該当する売却を行っていれば、2027年12月31日までの売却について
空き家の3,000万円特別控除の適用は受けられるものと思われます。
売却日の留意点として、この改正による適用期限よりも前に
「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日」
が到来する場合には、その到来する日までに売却する必要があります。
その点にご注意ください。
なお、2024年1月1日以後の空き家の売却については、上記改正のとおり
「空き家を取得した相続人の数が3人以上である場合は、特別控除額を最高で2,000万円とする」
こととなります。
ご相談のケースはまさにこの制限の対象となるため、2023年中の売却であれば3人で
最高9,000万円(3,000万円×3人)控除できるものが、2024年以降の売却になると最高6,000万円
(2,000万円×3人)の控除に減ります。
この点もご留意いただきながら、売却時期をご検討いただければ幸いです。
相続における生命保険の有効性
[相談]
70歳になり相続について真剣に考えるようになりました。
保有している財産状況から相続税は避けられそうにありません。
先日、同世代の知人から、納税資金の準備は預金より生命保険の方が
有効なので加入した方がよいとアドバイスを受け、保険代理店を紹介されました。
預金と家賃収入が十分あり生命保険は不要と考えていたため
これまで加入した経験がありません。
相続対策として預金にはない効果を期待できるなら加入しようと思いますが
営業担当者の説明だけで決断することに不安があります。
客観的な立場から相続における生命保険の有効性
生命保険と預金の違い、注意点について教えてください。
相続人は妻と子2人の予定です。
受取人は子2人5割ずつ指定すればよいといわれました。
【保険代理店からの提案プラン】
- 契約者、被保険者:私
- 死亡保険金受取人:長男、長女 5割ずつ
- 保険種類:一時払終身保険
- 保険金額:1,000万円
- 一時払保険料:9,623,000円
[回答]
- 生命保険は預金よりも有効とされるポイントがいくつかあり
- 相続において有効と考えられます。
- 預金との違いと注意点については詳細解説をご確認ください。
[解説]
提案された契約形態で死亡時に子が受け取る死亡保険金は受取人固有の財産ですが
相続税の計算上は、みなし相続財産と扱われ課税対象となります。
相続税の対象となる点は預金と同じですが、以下の点で違いがあり
生命保険は相続において有効と考えられます。
1.生命保険の特徴
- ◆非課税枠がある
契約者(保険料負担者)、被保険者ともに被相続人となる生命保険契約で - 相続人が受け取る死亡保険金は、非課税枠「500万円×法定相続人の数」を適用できる。
- ◆生前に死亡保険金受取人を指定できる
生前に契約者が死亡保険金受取人を指定するため - 契約者の意思により遺したい人に確実に遺せる。
- ◆被相続人の預金の払戻しより手間なく受取人の口座に入金できる
生命保険の死亡保険金は、一般的に保険会社所定の保険金請求書、死亡診断書 - 死亡日を証明できる公的書類(除籍謄本など)があれば請求手続きができ
- 書類提出から1~2週間で受取人指定の口座に入金されます。
- 一方、預金は亡くなった旨の通知があったときから口座が凍結され
- 遺産分割が終了するまでの間、相続人単独では払戻しを受けられないことがあります。
- そのため、平成30年の民法改正(平成31年7月施行)により
- 遺産分割前に相続預金口座の払戻し制度が設けられ
- 相続人単独で払戻しを受けることができるようになりました。
- しかし、その手続きには被相続人の除籍謄本以外に相続人全員の戸籍謄本が
- 金融機関ごとに必要など、死亡保険金請求よりも必要書類が多く
- 払戻し額は一定の範囲内に制限されています。
- ◆遺産分割協議の対象にならない
上記のとおり死亡保険金はあくまでも受取人固有の財産であり - 相続財産ではないため通常は、遺産分割協議の対象にはなりません。
- そのため、原則として遺留分を計算する際も対象に含まれません。
このように預金よりも有効とされるポイントがいくつかある一方で
次のような注意点もあります。
2.生命保険の注意点
- 預金より流動性が劣る
- 契約から早期に解約すると元本割れする可能性が高い
- 税制が変わり、期待した効果が得られない可能性がある
- インフレにより保険金の資産価値が下がる可能性がある
相続対策の検討は、保有している財産全体を踏まえて
納税見込額や財産の分け方などを整理しておく必要があります。
保険金額や受取人についても慎重に検討した方がよいでしょう。
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誤りやすい事例/遺留分侵害額請求の訴訟が提起されている場合の特例の適用
税務処理における誤りやすい項目について、大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 相続税関係 令和4年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、小規模宅地等の課税価格の特例についてです。
誤った取扱い
令和4年3月に死亡した父は
相続財産をすべて長男に相続させる旨の公正証書遺言を作成していたが
他の相続人から、遺留分侵害額請求の訴訟が提起された。
そのため、小規模宅地等の特例の適用対象宅地等の選択についての
同意が得られないとして、同特例を適用せず期限内申告書を提出した。
正しい取扱い
他の相続人から遺留分侵害額請求の訴訟が提起されていたとしても
長男は、遺言により不動産も含め相続財産のすべてを取得しているのであり
小規模宅地等の特例の適用対象宅地等の選択について他の相続人の同意を要しないから
同特例を適用して申告することができる(措令40の2⑤、相基通⑪の2-4)。
なお、相続税の申告期限後に
長男が他の相続人に対し遺留分侵害額に相当する金銭を支払うこととなり
長男がこれに代えて小規模宅地等の特例の適用を受けた宅地
(以下「特例宅地」という)の所有権を他の相続人に移転させたとしても
当該所有権の移転は、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うための譲渡
(代物弁済)と考えられ、長男が遺贈により特例宅地を取得した事実に異動は生じないことから
長男が小規模宅地等の特例の適用を受けることができなくなるということはない。
また、長男から特例宅地の所有権の移転を受けた他の相続人については
上記のとおり、相続又は遺贈により取得したものとはいえないため
特例の適用を受けることはできない。
よって、長男は原則として、遺留分侵害額に相当する価額により
特例宅地を譲渡したとして、所得税が課税される(所法33-1の6)。
教育資金、結婚・子育て資金贈与Q&Aの改訂版が公表されました
国税庁は5月26日に
「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A」と
「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A」について
令和5年度改正を反映した改訂版を公表しました
今回の改正では、教育資金贈与の非課税制度について
教育資金管理契約期間中に贈与者が死亡し
その相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは
受贈者が23歳未満である場合等であっても
死亡日における管理残額が相続税の課税対象とされました
令和5年4月1日以後に取得した信託受益権等に適用されます。
教育資金贈与Q&Aでは、改正に伴い管理残額の計算等に関する問などが改訂されたほか
取扱金融機関に相続税の課税価格に関する確認書類等を提出したが
相続税の申告期限後に修正申告書等の提出等により相続税の課税価格の
合計額が5億円超又は5億円以下となる場合には
税務署長から取扱金融機関に通知されることから
受贈者は取扱金融機関への手続が不要であること等が示されました
また、両制度について、資金管理契約終了時の残額に
暦年課税の贈与税が課されるときは、一般税率(改正前:特例税率)
を適用するという見直しを受け
両Q&Aでは、資金管理契約終了時の贈与税の計算方法に関する問が追加されました
(教育資金贈与Q5-4、結婚・子育て資金贈与Q5-3)
加えて、両制度の資金管理契約の終了に関する調書について一部様式が変更され
「一般贈与財産とみなされる金額」の欄が追加されました
よくある間違い・・・債権放棄に伴う株価上昇分は・・・
代表者から後継者へのみなし贈与に該当
令和5年度改正における相続時精算課税制度の見直しにより
相続時精算課税制度について、相続財産への加算不要の110万円の基礎控除が創設等されました
(令和6年1月1日以後の贈与等に適用)。
基本的に、納税者有利の改正であるため、同制度を適用した生前贈与を検討するケース
が多くなることが想定されます。
同制度は、相続財産への加算対象額が贈与財産の「贈与時の時価」で固定されるため
事業承継に伴う株式の贈与時に活用されることも多いですが
予期せぬ“みなし贈与”が存在する点に留意する必要があります。
例えば、会社の代表者(特定贈与者)から今後の値上がりが見込まれる株式を
後継者(精算課税適用者)に贈与する場合において
代表者が会社に貸し付けていた金銭(貸付金債権)の放棄に伴い生じた株価上昇分は
代表者から後継者へのみなし贈与として、相続財産への加算対象額に含まれることになります。
例えば
例えば、
①同族会社X社(非上場)に金銭を貸し付けている代表者(父・特定贈与者)が
②後継者(子・精算課税適用者)にX社株式(贈与時の時価3,000)を贈与した上で
③代表者がX社に係る貸付金債権を放棄し
④X社に生じた債務免除益によりX社株式の価額が500上昇した
(贈与時の時価3,000→債権放棄時の価額3,500)とする。
この場合、代表者がX社に係る貸付金債権を放棄したことにより生じた
X社の債務免除益(経済的利益)は、X社が代表者から贈与で取得したものとされます
そして、同債権放棄に伴うX社株式の価額の上昇分500は、
“株主である後継者が代表者(債権放棄をした者)から贈与により取得したもの”と取り扱われます
つまり、相続財産への加算対象額は、通常であれば、X社株式の贈与時の時価3,000であるものの
債権放棄に伴うX社株式の価額の上昇分500も、後継者が“みなし贈与”により取得したものと取り扱われるため
結果、相続財産への加算対象額は3,500(X社株式の贈与時の時価3,000+上昇分500)となります
相続時精算課税制度を適用している場合において
債権放棄に伴う株式の価額の上昇分が相続財産への加算対象額に含まれることは
裁決事例(大裁(所・諸)令3第37号、令和4年3月16日裁決、未公表)でも示されており
同制度の適用時には改めて注意が必要となります
相続開始の同年中に被相続人から贈与を受けた相続人が相続又は遺贈により財産を取得しない場合
今回も、大阪国税局の資料から
『相続開始の同年中に被相続人から贈与を受けた相続人が
相続又は遺贈により財産を取得しない場合』の相続税の申告について
ご紹介します
間違った取扱い
甲は、令和4年6月に死亡した父から相続財産を
取得しなかったが、同年5年に父から財産の贈与を受けていたことから
当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格とみなして
相続税の申告を行った
正しい取扱い
相続又は遺贈により財産を取得した者が
相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から
贈与を受けていた場合、その贈与により取得した財産の
価額を加算した価額が相続税の課税価格とみなされ
その者が相続開始の年に贈与を受けていた場合
贈与税の申告は不要となる
しかしながら、相続又は遺贈により財産を取得していない者には
これらの規定は適用されない
したがって、甲は相続税の申告は不要であり
贈与については令和4年分の贈与税の申告の対象となる
ただし、甲が相続時精算課税適用者であった場合
又は当該贈与について相続時精算課税を適用する場合には
贈与税の申告は不要であり、相続税の課税対象となる
住宅取得等資金の贈与税の特例と令和5年度税制改正
[相談]
孫が結婚を機に、マイホームを取得しようか検討しています。
そこで、結婚祝いとしてマイホームを取得するための金銭の贈与を予定していますが
マイホームの取得がいつになるか現時点ではわからないため
贈与するタイミングを待っています。
マイホームを取得するための金銭の贈与については
一定額まで贈与税が非課税となると聞いています。
これが今年(2023年)の年末までと聞きましたが
令和5年度税制改正で延長はされないのでしょうか?
[回答]
ご相談の非課税は、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度と考えられますが
こちらについては、令和5年度税制改正で延長は予定されていないため
2023年12月31日の適用期限をもって廃止となります。
[詳細]
1.住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
父母や祖父母など直系尊属からの贈与により
自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築
取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下、住宅取得等資金)を取得した場合において
一定の要件を満たすときは、一定の非課税限度額までの金額について
贈与税が非課税となります。
これを「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
(以下、非課税制度)」といいます。
この非課税制度については適用期間が定められており
令和4年(2022年)1月1日から令和5年(2023年)12月31日となっています。
2.令和5年度税制改正
2022年12月23日に閣議決定された「令和5年度税制改正の大綱」には
この非課税制度について何ら記載されていません。
そのため、この非課税制度は適用期限である令和5年(2023年)
12月31日の到来をもって、廃止されることが予定されます。
なお、今回の贈与について“結婚祝い”が背景にあるのならば
令和5年度税制改正により適用期限が2年延長される
「結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」について
ご検討いただくとよいでしょう。
適用対象となる資金の範囲に、マイホーム取得のための金銭は含まれていませんが
結婚・子育てに要する一定の資金が対象となります。
ただし、この制度には様々な要件があります。
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米ドル建て終身保険を活用した贈与は、ほんとに節税???
[相談]
3年前に父が亡くなったとき、母(現在70歳)は預金約1億円と賃貸アパート
(相続税評価額2億円)を相続しました。以後、母は二次相続の税負担を心配して
母の相続人となる私と妹に毎年100万円ずつ預金を贈与しています。
先日、母が「贈与に有効な生命保険の活用方法がある。預金にしておくよりもよい」
と銀行から生命保険の提案を受け、私と妹で検討することになりました。
先に亡くなった父は、私と妹を受取人に指定して父が保険料を払う形で契約していました。
父が契約していた形態とどのような違いがあるのか
また、今回銀行から提案されている内容について検討のポイントを教えてください。
【銀行からの提案プラン(保険料贈与プラン)】
- 保険種類:米ドル建て終身保険
- 契約者・保険料負担者:私、妹(それぞれ同じ契約1件ずつ)
- 被保険者:母
- 死亡保険金受取人:契約者
- 保険金額:100,000$
- 保険料:年払8,600$(払込期間 10年)
[回答]
お父様が契約されていた生命保険は
支払われる死亡保険金がみなし相続財産と扱われるため
相続税の対象となります。
他方、今回銀行から提案されている保険料贈与プランについて
支払われる死亡保険金は
受贈者の所得税の対象(一時所得)となります。
今回銀行から提案されている内容についての検討のポイントは、
詳細をご確認ください。
[詳細]
1.お父様が契約されていた生命保険
お父様のように自らが契約者(保険料負担者)となる生命保険契約では
支払われる死亡保険金はみなし相続財産と扱われ
他の財産と合算して相続税の対象になります。
また、受取人が相続人であれば、相続税の計算上、一定の非課税枠が適用できます。
2.保険料贈与プラン
保険料贈与プランにおける契約者(保険料負担者)は受贈者です。
お母様が亡くなったときに支払われる死亡保険金は
受贈者の所得税(一時所得)の対象として扱われます。
一時所得は以下の計算方法で算出します。
課税が発生する場合は、課税対象額を他の所得と合算して税金を計算します。
保険料贈与プランは、贈与によりすでにお母様の財産から切り離された
子の資金を保険料に充てた契約であるため
受け取る死亡保険金はお母様の相続財産や相続税の計算に影響を及ぼしません。
一般的に被相続人の相続財産が多額で相続税が高く
相続人の所得が低いなど、それぞれに適用される税率の差が大きいほど
保険料贈与プランの効果が出やすいと考えられます。
3.今回のプランでの検討ポイント
- ➡想定されるお母様の相続財産全体と税率
- ➡子2人(相談者様と妹様)の所得、税率
- ➡納税資金の準備状況
- ➡為替変動リスク許容度
- ➡払込期間中にお母様からの贈与が途絶える可能性
銀行からの提案プラン(保険料贈与プラン)は米ドル建てであり
相続発生時の為替レートは予測不能です。そのため
支払保険料累計と死亡保険金を円で計算すると
死亡保険金が支払保険料累計を下回る可能性があります。
米ドルで受け取ることもできますが
この保険を納税資金に充てる場合は円に交換する必要があります。
為替変動に左右されるため、結果的に税金面の効果も期待したほど出ないかもしれません。
上記のポイントをおさえて、専門家に相談しながら判断されることをお勧めします。
贈与税における誤りやすい事例/店舗兼住宅の場合の床面積基準の判定
贈与税の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和4年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、住宅取得等資金の非課税制度についてです。
誤った取扱い
親から住宅取得等資金の贈与を受け、店舗兼住宅を購入した。
その家屋の居住用部分の床面積が200㎡(家屋全体の床面積300㎡)
であることから、面積制限(40㎡以上240㎡以下)の要件を満たしているため
住宅取得等資金の贈与の特例の適用があるとして申告を行った。
正しい取扱い
店舗兼住宅の場合の床面積基準の判定については
居住の用以外の用に供されている部分の床面積を含めた
家屋全体の床面積で判定することになる。
このことから、居住用部分の200㎡ではなく
家屋全体の床面積300㎡で判定することになる
(措通70の2-6で準用する70の3-6(1))。
したがって、特例の適用を受けられない。
※2人以上の者で共有されている家屋の床面積基準の判定についても
持分に対応する床面積で判定するのではなく
家屋全体の床面積で判定することになる
(措通70の2-6、70の3-6(2))。
贈与税における誤りやすい事例/養子縁組の日と、孫の相続時精算課税の適用可否
贈与税の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和3年分用」
より、ピックアップしてご紹介します。
今回は、相続時精算課税についてです。
誤った取扱い
平成10年に長男が生まれ、翌年の平成11年に私は伯父と養子縁組をした。
その後、平成12年に二男が生まれた。
令和3年に長男及び二男は伯父からそれぞれ1,000万円ずつ現金の贈与を受け
それぞれ相続時精算課税を選択して贈与税の申告をした。
正しい取扱い
相続時精算課税の適用に当たっては、受贈者は 贈与をした者の直系卑属である推定相続人又は孫である必要がある。 また、養子縁組により親族関係が生ずるのは、養子縁組の日からである。 したがって、養子縁組前に生まれた長男については 伯父と当然に直系卑属関係になるわけではなく また、孫にも当たらないため、相続時精算課税の適用を受けることはできない。 なお、二男については、養子縁組後に生まれているため 伯父の孫に当たり、この特例の適用を受けることができる。 |
贈与税における誤りやすい事例/贈与者死亡時の子育て資金口座の残額の取扱い
贈与税の処理における誤りやすい項目について、大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和4年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、結婚・子育て資金の非課税制度関係についてです。
誤った取扱い
令和元年6月に祖父から1,000万円の贈与を受け
結婚・子育て資金の非課税制度の適用を受けていたが
その後、本年10月に祖父が亡くなった。
1,000万円のうち700万円は子育て資金として使用し
結婚・子育て資金口座には300万円の残額(「管理残額」という)があったが
何も手続きをしなかった。
正しい取扱い
贈与者が死亡した事実を知ったときは
速やかに贈与者が死亡した旨を取扱金融機関の営業所等に届け出なければならない
(措法70の2の3⑫一)。
また、贈与者が死亡した日において管理残額があるときはその管理残額は
その贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされる
(措法70の2の3⑫二)。
したがって、受贈者は取扱金融機関の営業所等に管理残額を確認し
この残額と祖父から相続又は遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって
財産を取得した各人の課税価格の合計が
遺産に係る基礎控除額を超える場合は
相続税の申告をする必要がある。
贈与税における誤りやすい事例/教育資金口座から払出し、手元にある金額の取扱い
贈与税の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和4年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、教育資金の非課税制度についてです。
誤った取扱い
前年に、教育資金口座から800万円の払出しを行い
そのうち500万円を同年中に教育資金の支払いに充て
残額の300万円を本年に教育資金として支払いをした。
教育資金口座から払出した800万円全額が教育資金の支払いに充てられていることから
すべてを非課税とした。
正しい取扱い
教育資金支出額(非課税となる額)は、その年中に払い出した金銭の合計額と
その年中に教育資金の支払いに充てた合計額のいずれか少ない方の金額となる
(措法70の2の2⑨二、⑪、⑮)。
したがって、翌年に教育資金の支払いに充てた300万円は教育資金支出額に該当せず
教育資金口座に係る契約が終了した日の属する年の贈与税の課税価格に算入されることになる。
※受贈者の死亡により契約が終了した場合を除く(措法70の2の2⑭)
贈与税における誤りやすい事例/住宅取得等資金の非課税制度と相続時精算課税
贈与税の処理における誤りやすい項目について、大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和4年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、住宅取得等資金の非課税制度についてです。
誤った取扱い
父から2,500万円の贈与を受け、省エネ等住宅を新築したため
1,000万円の非課税の特例の適用を受けることとしている。
2,500万円から1,000万円を控除した残額の1,500万円については
相続時精算課税を選択できないと考え、暦年課税となるとした。
正しい取扱い
この特例を適用した後の残額については
①暦年課税の基礎控除額(110万円)又は
②相続時精算課税の特別控除額(2,500万円)を選択することができる
(措法70の3①)。
墓地や墓石の購入と相続税対策
[相談]
先日参加した「相続セミナー」で、墓地や墓石は生前に購入した方が
相続税対策になると聞きました。
借金をしてまでも購入した方がよいのでしょうか?
[回答]
たしかに、墓地や墓石を生前に購入された方が、相続税対策になります。
ただし、借金をしてまで購入することは相続税対策になりません。
[詳細]
1.墓地や墓石の相続税評価
相続開始時に、被相続人(お亡くなりになったご本人)
が所有していた一定の財産に対して、相続税が課税されます。
ただし、被相続人が所有していた財産のうち、墓地や墓石は祭祀財産(※)として
相続税が課税されない“非課税財産”となることから、相続税は課税されません。
他方、相続開始後に購入する墓地や墓石の費用は
相続税の計算上、財産から控除できる「葬式費用」に該当しません。
(※)祭祀財産には、墓地や墓石のほか、仏壇、仏具なども該当します。
2.生前の購入(相続税対策)
生前(相続開始前)に墓地や墓石を購入しておくと
その分相続税が課税される現預金が減り、相続税が課税されない墓地や墓石が増えます。
一方、相続開始後に墓地や墓石を購入する場合には
墓地や墓石を購入するための現預金に対して相続税が課税され
墓地や墓石を購入する費用は「葬式費用」に該当しないため
課税対象となる財産から控除することができません。
つまり、相続開始前か後かで、墓地や墓石を購入するための現預金相当について
相続税が課税されるか否かが異なってきます。
3.墓地や墓石購入のための借金
被相続人が所有していた財産から控除できるものとして
先に述べた「葬式費用」のほか「債務」があります。
この場合の「債務」とは
被相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるものを指します。
ただし、この「債務」に、墓地や墓石の未払代金や借金など
非課税財産に紐づく債務は含まれません。
つまり、相続税の計算上、課税される財産から控除できない借金をつくって
課税されない墓地や墓石を購入することは
相続税対策になりません。ご注意ください。
贈与税における誤りやすい事例/贈与資金で土地を先行取得した場合
贈与税の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和3年分用」
より、ピックアップしてご紹介します。
今回は、住宅取得等のための金銭の贈与の特例についてです。
誤った取扱い
令和3年10月に父から2,000万円の贈与を受けて土地を購入し
令和4年2月に自己資金で家屋を建てた。
今回の土地購入契約は、「家屋の新築請負契約と同時になされたもの」ではなく
また、「家屋の新築請負契約を締結することを条件とするもの」でもなかったため
「住宅用家屋の新築若しくは取得とともに取得する土地等」に当たらず
特例の適用は受けられないとした。
正しい取扱い
土地の購入に充てた2,000万円の贈与について
特例の適用を受けることができる。
特例の適用対象となる住宅取得等資金の範囲には
住宅用家屋の新築(住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の
翌年3月15日までに行われたものに限る。)
に先行してするその敷地の用に供される
土地等の取得のための資金が含まれる(措法70の2①一、70の3①一)。
また、贈与により取得した金銭が、土地等の取得の対価に充てられ
住宅用家屋の新築の対価に充てられた金銭がない場合であっても
当該土地等の取得の対価に充てられた金銭は住宅取得等資金に該当することとなる。
ただし、当該贈与があった日の属する年の翌年3月15日までに
住宅用家屋の新築(新築に準ずる場合を含む。)をしていない場合には
当該贈与により取得した金銭については特例の適用はない
(措通70の2-3、70の3-2(注)1)。
相続税の対象となる生前贈与を期間が改正に
[相談]
巷で騒がれていた相続税の計算上、相続財産に加算することとなる生前贈与の期間は
令和5年度税制改正でどのようになるのでしょうか?
[回答]
令和4年(2022年)12月16日に政府与党から公表された「令和5年度税制改正大綱」には
現行の「3年以内」から、「7年以内」へ延長される旨が記載されていました。
ただし、その延びた期間の贈与すべてが対象となるわけではなく
一定額は加算しないことが予定されています。
[詳細]
1.生前贈与の加算 相続または遺贈により財産を取得した人が その相続開始前一定期間内に暦年課税に係る贈与によって 被相続人から取得した財産があるときは、その人の相続税の計算上 相続財産に当該財産の価額を加算します。 この場合の加算対象となる“一定期間内”とは、現行は 3年以内(その相続に係る被相続人の死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間) とされています。 また、“暦年課税”とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間のうちに もらった(贈与を受けた)財産の合計額から基礎控除額(110万円)を 差し引いた残額に対して贈与税を計算する方式です。 2.令和5年度税制改正大綱 令和4年12月16日に政府与党から公表された「令和5年度税制改正大綱」には この加算期間を含めた改正について、以下のように述べられています。 相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間等について 次の見直しを行う。
3.まとめ 上記2.のとおり、
となる予定であることが明らかとなりました。 死亡日からさかのぼる期間が4年間延長されたものの 令和5年中の生前贈与は現行の範囲内です。 |
高齢者が加入する一時払終身保険と相続税対策
[相談]
父(78歳)が銀行から相続税対策として生命保険を勧められ
よく理解しないまま契約手続きの約束をしてしまいました。
現在、父は既往症があり生命保険に加入していません。
今回、高齢者でも健康状態の告知なく加入できるといわれ契約することにしたようです。
父の理解が乏しいため、契約手続きに長男である私も同席する予定です。
相続が発生したときに相続税が非課税になると説明を受けたようですが
私もよくわかりません。
一般的に相続税対策としてどのような効果が期待できるのか
また、契約前に確認しておくことなどを教えてください。
想定する父の法定相続人は、母(配偶者)、私(長男)、弟(次男)の3人です。
【銀行からの提案プラン】
- 保険種類:一時払終身保険(円建て)
- 契約者:父
- 被保険者:父
- 死亡保険金受取人:私(長男)、弟(次男)
- 保険金額:1,500万円
- 一時払保険料:1,495万円
[回答]
預金を一時払終身保険の保険料に一括して充当することで資産が生命保険に変わり
上手く設計すれば相続税の非課税枠が適用できます。
お父様の資産が多く、他に加入する生命保険がない場合
非課税枠の確保は相続税対策として有効と考えられます。
また、契約前に確認しておくことについては、詳細解説をご参照ください。
[詳細]
1.相続税対策としてどのような効果があるのか
亡くなった人が契約者、被保険者となっている生命保険で
相続人が受け取る死亡保険金は、相続税の計算上
みなし相続財産として相続税の対象となりますが
受け取る金額が「500万円×法定相続人の数」までは非課税(非課税枠)として扱われます。
今回の提案プランは、お父様が他に生命保険に加入していないことを前提に
想定されるお父様の法定相続人の数にあわせて非課税枠分の1,500万円で設定されたものと考えられます。
一般的に、下記の背景が明確なケースであれば
生命保険の非課税枠確保は相続税対策として有効と考えられます。
- お父様の資産が多く、保有状況から相続税の対象となることが見込まれる
- 他に非課税枠が適用できる生命保険に加入していない
2.契約前に確認しておくこと
契約にあたっては、主に次の点に注意、確認しておきましょう。
- ①生命保険は預金と比べて流動性が低く、途中解約時の返戻金は
- 払い込んだ保険料より少ないことが多いため、経過ごとに返戻金がどれくらいになるか確認しておく
- ②契約手続き時に渡される「注意喚起情報」の内容をしっかり確認する
- ③預金を保険料に充当することでお父様の手元資金が減るため
- 生活設計に支障がないか十分に検討しておく
- ④保険会社の健全性を示す指標を確認しておく
- ⑤契約手続き後にお父様の意思が急に変わったときに備え
- クーリングオフの流れを確認しておく
- ⑥法改正により期待した税対策効果が得られない可能性や、経済情勢や金利変動によって
- 相対的に生命保険の資産価値が下がる可能性についても理解しておく
また、おそらく今回のプランでは考慮済かと思われますが、次の点にも留意しましょう。
- ①非課税枠を適用したい場合には、保険金受取人は相続人となる人
- (=非課税枠を適用できる人)になっているか確認すること
- ②民法上、保険金は相続時の遺産分割の対象とならないため
- 誰を受取人とするか慎重に検討すること
高齢者の生命保険契約においては、理解不十分なまま手続きを済ませ
後日、取り消したい等のトラブルが多いといわれています。
トラブルを避けるためにも、お父様の意思を確認し
同席するご家族の方も契約内容を一緒に確認していただくことをお勧めします。
贈与税における誤りやすい事例/贈与の翌年3月15日までに居住しない場合の適用可否
贈与税の処理における誤りやすい項目について、大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和3年分用」より
ピックアップしてご紹介します。
誤った取扱い
令和3年中に親から住宅取得等資金の贈与を受け、翌年3月15日までに
贈与を受けた住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の取得のための対価に充てたが
令和4年3月15日までに居住しない予定であるため、特例の適用はないとした。
正しい取扱い
贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住しない場合であっても
取得した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが
確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により
特例の適用が可能である(措法70の2①、70の3①)。
ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日(以下「居住期限」という。)
までに受贈者の居住の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため
修正申告書の提出が必要となる(措法70の2④、70の3④)。
※ 新型コロナウイルス感染症に関し、感染拡大防止の取組に伴う工期の見直し
資機材等の調達が困難なことや感染者の発生などにより工期が延長されるなど
自己の責めに帰さない事由により居住期限までに居住できなかった場合は
「災害に基因するやむを得ない事情」に該当するものとして
居住期限の1年の延長が認められる(措法70の2⑩、70の3⑩)。
贈与税における誤りやすい事例/養子縁組の日と、孫の相続時精算課税の適用可否
贈与税の処理における誤りやすい項目について、大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 贈与税関係 令和3年分用」より
ピックアップしてご紹介します。今回は、相続時精算課税についてです。
誤った取扱い
平成10年に長男が生まれ、翌年の平成11年に私は伯父と養子縁組をした。
その後、平成12年に二男が生まれた。
令和3年に長男及び二男は伯父からそれぞれ1,000万円ずつ現金の贈与を受け
それぞれ相続時精算課税を選択して贈与税の申告をした。
正しい取扱い
相続時精算課税の適用に当たっては 受贈者は、贈与をした者の直系卑属である推定相続人又は孫である必要がある (相法21の9①、措法70の2の6①)。 また、養子縁組により親族関係が生ずるのは、養子縁組の日からである(民法727)。 したがって、養子縁組前に生まれた長男については 伯父と当然に直系卑属関係になるわけではなく また、孫にも当たらないため、相続時精算課税の適用を受けることはできない。 なお、二男については、養子縁組後に生まれているため 伯父の孫に当たり、この特例の適用を受けることができる。 |
土地等譲渡所得における誤りやすい事例/元妻への財産分与と特例の判定時期
元妻への財産分与と特例の判定時期
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」
より、ピックアップしてご紹介します。
今回は、措法41条の5
(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除)についてです。
誤った取扱い
令和3年中に妻と離婚し、それまで居住していたマンションを元妻へ財産分与した。
この分与により譲渡損失が生じたが、居住用財産の買換え等の譲渡損失の損益通算
及び繰越控除の特例(措法41の5)を適用できないとした。
正しい取扱い
譲渡人の配偶者及び直系血族などの特殊関係者に対する譲渡による損失については
この特例の適用はないこととされているが
その判定時期は、譲渡の時の状況によることとされている
(措通41の5-18で重用する31の3-20)。
この場合、分与時には、分与を受けた者は分与をした者の配偶者ではないので
措法41条の5の適用要件を満たすものであれば適用することができる。
遺産分割に関する民法改正と相続税の申告期限
[相談]
遺産分割について「10年」を経過すると、基本的には法定相続分とする民法改正がありましたが
これに伴い相続税の申告期限が改正されましたか?
[回答]
ご相談の民法改正に伴う相続税の申告期限の改正は、行われていません。
[詳細]
1.遺産分割に関する民法改正 これまで、遺産分割については、相続開始(被相続人の死亡)時から 何年経過した後に行っても、分割方法に違いが生じなかったことから 早期に遺産分割の協議または請求をすることにつき、インセンティブが働きにくい状態でした。 しかし、遺産分割がされないまま相続が繰り返され 多数の相続人により遺産が共有されると、遺産の管理や処分が困難となり そのような状態下で相続人の一部が所在不明となることが 所有者不明土地が生じる原因の一つとなっていました。 そこで、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しとして 遺産分割に関する民法の規定が改正されることになりました。 たとえば、具体的相続分(※)による遺産分割に時的限界が設けられ 相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分ではなく 法定相続分によることになりました (合意があれば、10年経過後でも具体的相続分による遺産分割は可能です)。 この改正は、経過措置を除き、令和5年(2023年)4月1日に施行されます。 (※)具体的相続分とは、 民法であらかじめ定められている画一的な割合である法定相続分を 事案ごとに修正して算出する割合であり、特別受益や寄与分などを 踏まえて算定されるものをいいます。 2.相続税の申告納税期限 相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日 (通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10ヶ月以内に行うこととされています。 たとえば、10月10日に死亡した場合には、翌年8月10日が申告期限となります (この期限が土曜日・日曜日・祝日の場合には、これらの日の翌日が申告期限です)。 この「10ヶ月」という期限は、上記1.の民法改正が行われても変わりません。 3.未分割の場合の相続税の申告納税期限 相続税の申告に際して、遺産分割協議が調わない場合(いわゆる「未分割の場合」) であっても、申告納税期限に変更はありません。未分割のまま申告納税を行います。 未分割での申告納税とは、相続財産を法定相続分で相続したものと みなして申告納税を行うことを指します。 その際には、相続税が減額できる「小規模宅地等の特例」や 「配偶者の税額の軽減」を適用することができません。 その後に分割が行われた場合は、実際に相続した財産、かつ これらの減額を適用した後で相続税を計算し直すため、結果的には相続税を減額することはできますが 一時的にしろ未分割の状態での納税は、かなりの納税資金が必要となる場合があります。 その点も良く考えて、遺産分割をお考えいただければ幸いです。 |
相続人が海外に居住する場合の小規模宅地等の特例の適用可否
[相談]
- 下記案件で、小規模宅地の特例が適用できるかどうか
- ご教示ください
- ・被相続人は国内居住で、被相続人に配偶者はいない(本件相続発生前に死別)
- ・本件相続財産は、被相続人の居住の用に供されていた国内の土地、建物、現金など
- ・相続人は1名のみ(被相続人の子)で、その相続人に配偶者はいない
- ・相続人は15年以上海外に居住し、海外の企業(相続人と特別の関係はない)が
- 所有する賃貸不動産に居住している
- (相続人の国籍は日本。また、相続人は過去に居住用家屋を一度も所有したことはない)
- ・本件相続開始時から相続税申告期限まで、継続して上記の土地建物を所有する(見込み)
[回答]
- ご相談の場合、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の
- 適用を受けられるものと考えられます。詳細は下記解説をご参照ください。
[解説]
相続税法上の小規模宅地等の特例とは
個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、その相続の開始の直前において
その相続若しくは遺贈に係る被相続人又はその被相続人と生計を一にしていた
その被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で
一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているもので
一定のものがある場合には、その相続又は遺贈により
財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち
その個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部で
この規定の適用を受けるものとして一定の方法により選択をしたもの
に限り、相続税の課税価格に算入すべき価額は
その小規模宅地等の価額にその小規模宅地等の区分に応じた一定の割合
(※2)を乗じて計算した金額とする、という制度です。
※1 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等については、330㎡
※2 特定居住用宅地等である小規模宅地等については、20%
2.特例対象宅地等の要件
上記1.の特例対象宅地等とは、相続開始の直前において
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、一定の区分に応じ
それぞれ一定の要件に該当する被相続人の親族が相続または
遺贈により取得したものをいいます。
その具体的な要件は、その宅地等が被相続人の居住の用に供されていたものであり
かつ、その宅地等の取得者がその被相続人の配偶者又は相続開始の直前において
その被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でない場合には
次のとおりとなります。
- ①居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと
- ②被相続人に配偶者がいないこと
- ③相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた
- 家屋に居住していた被相続人の相続人がいないこと
- ④相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者
- 取得者の3親等内の親族または取得者と特別の関係がある
- 一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと
- ⑤相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前の
- いずれの時においても所有していたことがないこと
- ⑥その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
したがって、今回のご相談の場合、本件土地は上記要件を満たすことから特例対象宅地等に該当し
相続人は小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けられるものと考えられます。
相続で取得した不動産の減価償却方法
[相談]
私はこのたび、相続により父から賃貸用不動産(建物や構築物など)を取得しました。
このため、私は今年分から不動産所得の確定申告を行うこととなったのですが
その不動産所得の必要経費における賃貸借不動産の減価償却費について
どのような考え方・方法で計算すればよいのでしょうか。教えてください。
[回答]
ご相談の場合、相続された賃貸用不動産の減価償却費の計算の基礎となる取得価額等
(取得価額・未償却残高・耐用年数・経過年数)については
亡くなられたお父様(被相続人)の取得価額等を引き継ぐこととなります。
なお、減価償却方法(定額法、定率法など)については、原則として
ご自身で選定された償却方法により行っていただくこととなります。
[解説]
1.相続等により取得した資産の取得費等の考え方
所得税法上、納税者が贈与・相続・遺贈等により取得した減価償却資産
(不動産所得の基因となる建物など)の取得価額は、原則的には
その減価償却資産を取得した人(今回の場合は、賃貸用不動産を相続されたご相談者)
が引き続き所有していたものとみなした場合における
その減価償却資産の取得価額に相当する金額とすると定められています。
したがって、今回のご相談の場合、ご相談者が相続により取得した賃貸用不動産の取得価額は
亡くなられたお父様(被相続人)の取得価額をそのまま引き継ぐこととなります
(あわせて、その賃貸用不動産の未償却残高・耐用年数・経過年数も引き継ぐこととなります)。
2.相続等により取得した資産の減価償却方法
所得税法上、納税者がその年12月31日において所有する減価償却資産につき
その償却費としてその人の不動産所得の金額、事業所得の金額等の金額の計算上
必要経費に算入する金額は、
その取得をした日及びその種類の区分に応じ償却費が毎年同一となる償却の方法(定額法)
償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法(定率法)等
の一定の方法の中から、その人がその資産について選定した償却方法
(償却方法を選定しなかった場合には、法定償却方法)
により計算した金額とすると定められています。
したがって、今回のご相談の場合、相続された賃貸用不動産の減価償却方法については
亡くなられたお父様(被相続人)の減価償却方法をそのまま引き継ぐことはできず
あくまでも、ご相談者自身が選定された償却方法(選定をされなかった場合には
法定償却方法:今回のご相談の場合は定額法)により、その減価償却費を計算することとなります。
未分割による相続税の申告後に分割が確定した場合の更正の請求書の提出期限
[相談]
遺産分割協議が調わなかったため未分割による相続税の申告書を提出して
いましたが、先日その分割が確定しました。
遺産分割の成立に伴って
未分割による相続税の申告では適用を受けられなかった
配偶者に対する相続税額の軽減等の規定の適用を受けるため
更正の請求手続を行う予定です
この更正の請求書はいつまでに提出しなければならないのでしょうか。
[回答]
ご相談の場合、更正の請求書は
分割確定後4ヶ月以内に提出しなければならないこととなります。
[解説]
1.遺産が未分割の場合に適用を受けられない相続税法上の規定
相続税法上、相続税の申告書の提出期限までに
その相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が
共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない場合に
適用することができないと定められている規定は、次のとおりです。
- ①配偶者に対する相続税額の軽減
- ②小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
- ③物納
- ④農地等についての相続税の納税猶予及び免除等
- ⑤非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除
ただし、上記のうち①と②については
相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出することで
この分割されていない財産が申告期限から3年以内に分割された場合には
更正の請求を行うことで適用を受けることができます。
なお、3年を経過しても分割できないことについてやむを得ない事由がある場合には
一定期間内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」
を提出することで、3年経過後でも適用することができます。
2.相続税の更正の請求書の提出期限
相続税法上、相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は
民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って
課税価格が計算されていた場合において、その後その財産の分割が行われ
共同相続人又は包括受遺者がその分割により取得した財産に係る課税価格が
その相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったこと等の事由により
その申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったときは
それらの事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に限り
納税地の所轄税務署長に対し
その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求をすることができると定められています。
したがって、今回のご相談の場合、更正の請求書は
分割確定後4ヶ月以内に提出しなければならないこととなります。
相続等した土地の譲渡と、特定の土地等の長期譲渡所得の特別控除
土地等譲渡所得における誤りやすい事例/相続等した土地の譲渡と、特定の土地等の長期譲渡所得の特別控除
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、措法35条の2(特定の土地等の長期譲渡所得の特別控除)についてです
誤った取扱い
父が平成21年に4,000万円で購入した土地を、平成25年に相続により取得した。
令和3年に当該土地を5,000万円で売却したので、措法35条の2を適用して申告をした。
正しい取扱い
取得期間内に土地等を取得した個人(父)から相続、遺贈、及び贈与により取得した
土地等を譲渡した場合は、特定期間に取得をした土地等を譲渡した場合の
長期譲渡所得の特別控除の対象とはならない(措法35の2①、措通35の2-1)。
なお、父が土地を取得した価額及び取得した時期は引き継ぐこととなる(所法60)。
死亡後に相続人が受けるがん診断給付金等
[相談]
先月がんで亡くなった母の書類を整理したところ、がんと診断されたときや
がんの治療で入院した際の“給付金”と、死亡保険金が受け取れる保険(以下、がん保険)
に加入していたことがわかりました。
保険会社に連絡をいれたところ契約は有効に続いており
生前は何も手続きをしていなかったようで
給付金の請求手続きをするように言われました。
父はすでに亡くなっており、このたびの相続人は私(長女)と妹の合計2人です。
私が手続きを行いますが、受け取る給付金は相続においてどのように扱われるのでしょうか?
【契約内容】
- 保険種類:がん保険
- 契約者:母
- 被保険者:母
- 給付金受取人:被保険者(母)
- 死亡保険金受取人:私(相談者)
[回答]
ご相談のケースのように、被保険者の生前に請求手続きが行われず
死亡後に請求をする場合、給付金受取人が誰になっているかにより税金の扱いが異なります。
具体的な取扱いについては、詳細解説をご参照ください。
[詳細]
がん保険を含む医療保障の給付金は、被保険者が亡くなった後も保険契約が有効で
所定の要件を満たしていれば請求することができます。
被保険者の容態や事情により生前に請求手続きを行えず、死亡後に請求するケースは少なくありません。
この場合、誰が給付金受取人になっているかによって税金の扱いが異なります。
なお、同時に請求する死亡保険金は他の生命保険金と同様に
民法上は受取人固有の財産になりますが、相続税の計算上はみなし相続財産として課税対象となります。
1.給付金受取人
(1)被保険者本人の場合
本来、被保険者(被相続人)が受け取るものであるため
死亡後に受け取る給付金は相続財産として、相続税の課税対象となります。
この場合、相続手続き上は相続人の誰が受け取ったとしても相続人共有の財産であり
未収金として遺産分割協議の対象になります。
(2)被保険者の配偶者等(直系血族・生計を一にする親族)の場合
配偶者や子など被保険者以外が受取人に指定されている場合
被保険者が生前か死亡後かに関係なく指定された受取人の財産となります。
死亡後に給付金を受け取っても受取人の財産であるため
相続税の課税対象にはなりません。
また、この場合、保険契約に基づいて病気やケガによる身体の傷害に
基因して支払いを受けるものは、所得税法上、非課税とされています。
したがって、相続税、所得税ともに課税されません。
2.ご相談のケース
ご相談のケースにおける給付金受取人は、上記1.(1)に該当します。
死亡保険金の受取人であるご相談者が給付金と死亡保険金の請求手続きを行うため
保険会社からまとめて支払われるものと想定されます。
給付金と死亡保険金は相続税の課税対象となる点では同じですが
給付金は相続人共有の財産として遺産分割協議の対象になる点で
死亡保険金とは異なります。
支払明細等によって整理する必要がありますので、ご留意ください。
土地等譲渡所得における誤りやすい事例/被相続人が老人ホーム等に入居していた場合
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例
(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、措法35条3項(被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除)についてです
誤った取扱い
老人ホームに入居していた父が令和2年1月に亡くなり
老人ホームに入居する直前まで父が居住していた家屋とその敷地を相続した。
その後、家屋を取り壊して令和3年10月に敷地を売却したが
相続開始の直前において被相続人が居住していなかったので
被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(措法35③)
を適用できないとした。
正しい取扱い
平成31年4月1日以後の譲渡については
要介護認定等を受けていた被相続人が老人ホーム等に入居していた
などの一定の事由があり、一定の要件を満たす場合には
その入居により居住の用に供されていた家屋及びその敷地についても
被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(措法35③)
を適用することができる(措法35④括弧書)。
土地等譲渡所得における誤りやすい事例/居住用家屋とその敷地を別の者が相続した場合
事例
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」
より、ピックアップしてご紹介します。
今回は、措法35条3項(被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除)についてです。
誤った取扱い
令和3年1月に父が亡くなるまで居住していた実家の建物
(昭和54年築、耐震リフォーム済)を兄が相続し、その敷地を弟が相続した。
兄も弟も実家に居住する予定がないため令和3年11月に4,000万円で売却した。
弟の譲渡所得の申告にあたって、被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例
(措法35③)を適用して計算した。
正しい取扱い
被相続人の居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(措法35③)は
相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋とその敷地等の両方を取得した個人が
平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に一定の譲渡をした場合に
適用することができる(措法35③、措通35-9)。
したがって、弟は被相続人が居住していた家屋を相続していないので
特例の適用はない。
なお、兄についても、被相続人居住用家屋の敷地を相続していないので
弟と同様に特例の適用はない。
(※)被相続人居住用家屋とは、次の要件を満たす家屋である(措法35④)。
- ①昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
- ②マンション等、区分所有建物でないこと。
- ③相続開始直前において、その被相続人以外に居住していた者がいなかったこと。
- ④相続開始直前において、被相続人の居住の用に供されていたこと。
- (※)平成31年4月1日以後の譲渡については、相続開始直前において
- 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合であっても
- 一定の要件に該当すれば特例の適用がある。
相続における土地・家屋名寄帳の使用用途
[相談]
先日、父が亡くなりました。
父は生前、実家の土地建物を祖父から相続したと話していました。
父名義になっているのであれば名義を変更しなければならないと思うのですが
本当に父が相続していたのかも分かりません。調べるにはどうしたらよいですか。
[回答]
不動産を所有している可能性のある市町村が分かっているのであれば
名寄帳の写しを取得されるとよいでしょう。
[解説]
名寄帳とは、固定資産の状況や価格を明らかにするために
市町村が作成している固定資産課税台帳(地方税法(以下、法)第380条)
を所有者別にまとめたものです。
固定資産課税台帳には、所有者の氏名・住所、所在地(地番・家屋番号)
や面積、固定資産税の評価額・課税標準額・税額等が記載されていますので
名寄帳を取得すれば、亡くなられた方が所有している不動産の詳細が分からなくても
同じ市町村内の所有不動産の情報を一覧として確認することができます。
〈依頼するときのポイント〉
名寄帳を発行してもらう際には、共有名義(①)のものや免税点未満(②)
のものについても記載してもらうよう依頼しましょう。
- ①共有名義の場合、納税通知書は代表者のみに送付されます。
- 代表者が亡くなった本人ではなく他の共有者になっていると
- その共有不動産については亡くなった本人宛に納税通知書が届きません。
- ②同一名義人が所有する不動産の課税標準額の合計が
- 土地であれば30万円・家屋であれば20万円・償却資産であれば
- 150万円未満であるものについては、課税されません
- (今回は免税点未満と表現します。)(法第351条)。
- 相続登記の漏れを防ぐため、共有名義のものや免税点未満のもの
- についても記載してもらいましょう。
市町村は名寄帳を備えなければならないと決められています
(法第387条)が、市町村によっては納税通知書と一緒に課税明細書を
同封している等の理由のため、名寄帳の写しを交付していないところもあります。
その場合は、どのようにすれば亡くなった本人が所有するすべての
不動産を確認できるかを役所の方に確認し、その際も
上記の共有名義のものや免税点未満のものについて確認してもらうよう依頼しましょう。
近年、相続登記がされない等の理由で所有者不明土地
(所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が判明しても所在が不明で連絡がつかない土地)
が増えており、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まない等の事態になっています。
このような問題を減らし、予防するため、令和6年4月から相続登記が義務化されます
(不動産登記法第76条の2)。
もし、亡くなられた方が複数の市町村で不動産を所有している可能性があれば
相続登記に抜け漏れがないよう、
可能性のあるすべての市町村に名寄せ請求して確認することをお勧めします
いつまでに支給が確定した退職手当金等が相続税の課税対象になるのか
[相談]
1年前に社長が亡くなったのですが、社長の死亡退職金については
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により会社の財政事情が悪化している等の理由から
金額の確定及び支給ができていません。
相続税法上、いつまでに支給が確定した役員退職金であれば
相続税の課税対象に含まれるのでしょうか。
[回答]
ご相談の場合、社長(被相続人)の死亡後3年以内に支給が確定したものであれば
相続税の課税対象となります。
[解説]
1.退職手当金等のうち、相続または遺贈により取得したものとみなされるもの
相続税法上、被相続人の死亡により相続人その他の者がその被相続人に
支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与
(一定の年金または一時金に関する権利を含みます)で
被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合においては
その給与の支給を受けた者について
その給与を相続または遺贈により取得したものとみなすと定められています。
2.「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」の意義
上記1.の「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」とは
被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の額が被相続人の死亡後3年以内に
確定したものをいい、実際に支給される時期が被相続人の死亡後3年以内
であるかどうかを問わないものとして取り扱われています。
また、上記の場合において、退職手当金等が支給されること自体は
確定していてもその金額が確定しないものについては
上記の「支給が確定したもの」には該当しないものとされています。
なお、被相続人の生前退職による退職手当金等であっても
その支給されるべき額が、被相続人の死亡前に確定しなかったもので
被相続人の死亡後3年以内に確定したものについては
上記1.の退職手当金等に該当することとされていますので
念のためご留意ください。
実家の相続と売却に係る税の特例
[相談]
親が亡くなり、親と同居していた実家を相続することになりました。
実家以外の財産も相続するため、相続税の負担が生じる予定です。
実家については、一人で生活するには広いため売却を予定しています。
ところで、実家を相続した場合に小規模宅地等の特例を適用することで
相続税が減額すると聞きました。
この小規模宅地等の特例の内容と実家を売却する際の注意点について
教えてください。なお、相続人は私のみです
[回答]
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たす場合に
評価額の最大80%を減額できる制度です。
この特例を適用する場合には諸要件を満たす必要がありますが
その1つにご相談のケースであれば相続税の申告期限までその建物を所有し
居住し続けている必要があります。
少なくとも、ご実家の売却等は申告期限まで待っていただいた方が
よいと思われます。
[詳細]
1.小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例(以下、本特例)とは
個人が相続や遺贈によって取得した財産のうち
その相続開始の直前において、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた
親族の事業の用あるいは、居住の用に供されていた宅地等
(土地又は土地の上に存する権利)が一定の要件を満たす場合
その宅地等の一定の面積までの部分について
相続税の課税価格に算入すべき価額の最大80%を減額できる制度です。
2.ご相談のケースの場合
ご実家は、本特例の「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」
に該当するため、特定居住用宅地等の要件を満たす場合には
相続するご実家の敷地面積のうち330㎡までは
土地の価額の80%を減額することができます。
例えば、ご実家の土地の価額が5,000万円
(面積 250㎡)の場合、本特例の適用ができる場合には
価額は4,000万円(5,000万円×80%)減額されます。
上記のとおり、本特例を利用することが可能であれば
大幅に相続税の課税価格に算入すべき価額を抑えることができ
相続税が軽減されます。
3.注意点
(1)本特例を適用する場合
ご相談のケースの場合は、同居されていたとのことですから
特定居住用宅地等の要件を満たすには
相続開始の直前から相続税の申告期限まで(被相続人の死亡を「知った日」の翌日から10ヶ月間)
ご実家に居住し、かつその宅地等を所有している必要があります。
よって、ご実家の売却仲介等を不動産会社に依頼される場合は
申告期限が到来するまで売却を待っていただいた方がよいでしょう。
(2)居住用財産(マイホーム)を売却した場合
ご実家を売却すると、その譲渡益(譲渡所得)に対して
所得税と住民税が課されます。
この譲渡所得の計算においては、次のような特例が用意されています。
これらは併用して適用することが可能です。
- ①居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
(譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度) - ②相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
(相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる制度) - ただし、今回のご実家の売却に伴い
- 上記すべての特例を適用するためには
- 一定の期間内に譲渡する必要があるなど
- 一定の要件を満たす必要があります。
また、税額を計算する場合に、売却した土地や建物の所有期間が長い場合には
税率が軽減される特例がありますが
この所有期間は被相続人の所有期間を引き継ぎますので
この特例が適用できるケースが多くあります。
各種特例を適用するには様々な要件を満たす必要がありますので、ご留意ください。
土地等譲渡所得における誤りやすい事例/居住用家屋に該当するかの判断
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例
(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、措法35条1項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)
についてです。
誤った取扱い
父から使用貸借により土地を借り受けて居住用家屋の敷地としていたが
その敷地を父から相続した後、直ちに当該家屋とともに譲渡した。
この場合、所有者となった後の居住期間が短いため
居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(措法35①)の適用はないとした。
正しい取扱い
居住用家屋に該当するか否かは、居住期間で判断するのではなく
生活の拠点として利用していたかどうかで判断する。
つまり、日常生活の状況、家屋への入居目的、
家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断する
(措通31の3-2、35-6)。
したがって、この事例では、特例を適用できる。
成年年齢引下げに伴う贈与税率の改正~結婚・子育て資金の一括贈与
[相談]
今年(2022年)4月に高校3年生になった孫は、高校卒業とほぼ同時に結婚することになりました。
結婚相手は20代前半で二人とも経済的な余裕がないため
将来のことも考えてある程度まとまったお金を渡したいのですが
多額のお金が手元にあるのも問題であることから
『結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度』を利用して
信託受益権を付与するかたちで支援しようと思います。
この場合、孫は『結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度』
を適用することはできるのでしょうか。
孫は2004年7月生まれで、当該契約は今年11月に行う予定です。
[回答]
2022年4月1日以後の『結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度』
における受贈者の年齢要件は、結婚・子育て資金管理契約締結の日において
“18歳以上50歳未満”となります。予定通り11月に契約された場合には
契約締結日においてお孫さんは18歳に該当することから
その他の要件を満たす場合には、当該制度の適用を受けることができます。
[詳細]
1.結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度とは
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度とは
結婚や子育て資金に充てるために父母あるいは祖父母から
一定の方法で資金の贈与を受けた場合に
1,000万円を限度として贈与税がかからない制度です。
その特徴としては、主に以下のとおりです。
- 金融機関等との一定の契約に基づく贈与であること
(具体的には、結婚・子育て資金口座の開設等を行った上で - 結婚・子育て資金非課税申告書をその口座の開設等を行った
- 金融機関等の営業所等を経由して
- 受贈者の納税地の所轄税務署長に提出等するなど所定の手続が必要となります)
- 非課税として認められるには
- 支払いに充てた領収書等を金融機関等に提出する必要があること
- 非課税として認められる支払使途は、挙式費用、家賃、転居費用
- 妊娠、出産、育児に関する一定のものに限られていること
- 年齢が50歳に達したなど、契約期間が終了した時点で残額がある場合には
- その残額は贈与税の対象となること
- 契約期間中に贈与者が死亡した場合で残額がある場合には
- 相続税の対象となること
2.成年年齢引下げに伴う改正
受贈者の年齢要件は、今般の改正があるまで
結婚・子育て資金管理契約締結(以下、契約締結)の日現在において
「20歳以上50歳未満」に該当するか否かで判定をしてきました。
これが民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い
年齢要件の下限が「18歳」へと改正されて
「18歳以上50歳未満」であるか否かで判定することとなりました。
この改正は2022年4月1日以後の贈与から適用となるため
2022年中の贈与はこれまでの判定要素に加え
契約締結日における受贈者の年齢要件が4月以降と3月以前とで異なるため
注意する必要があります。
3.ご相談のケース
ご相談のケースは、契約締結を11月に行う予定とのことでした。
お孫さんは2004年7月生まれ、とのことですから、予定通りに行った場合には
契約締結日現在の年齢は「18歳」となります。
受贈者の年齢要件を満たすこととなるため、
その他の要件をすべて満たす場合には、
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を適用することができるものと考えます。
なお、民法の成年年齢の引下げにあわせて、経過措置を除き、女性の婚姻年齢が
「16歳以上」から「18歳以上」に引き上げられています。
その点もあわせてご確認ください。
<参考>
国税庁HP「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
相続で契約者変更をした保険の税金
[相談]
亡くなった父の相続手続きにあたり、父が管理していた書類を整理したところ
契約者が父、被保険者が私(A)になっている生命保険が見つかりました。
2年後満期になったときに満期保険金がおりる契約です。
保険会社に確認したところ、契約者を父から私に変更して引き継ぐよう案内され
この手続きは完了しました。
引き継いだ生命保険は、父の相続に係る相続税においてどのように扱われるのでしょうか。
また、引き継いだ後、私が受け取る満期保険金の税金についても教えてください。
【契約内容】
- 保険種類:養老保険
- 保険期間:10年満期(残2年)
- 保険金額(死亡・満期):500万円
- 保険料払込方法:全期前納払い(全額父負担)
- 契約者:父(契約引継ぎ後:A)
- 被保険者:A
- 死亡保険金受取人:父(契約引継ぎ後:Aの配偶者)
- 満期保険金受取人:父(契約引継ぎ後:A)
[回答]
ご相談のケースでは、相続により引き継いだ生命保険は 「生命保険に関する権利」として お父様がお亡くなりになった時点の解約返戻金相当額に未経過保険料等を加算等した額が相続税の課税対象となります。また、質問者(A)様が受け取ることとなる満期保険金は、所得税(一時所得)の対象となります。 [詳細] 1.被保険者とは異なる契約者が保険契約期間中に死亡した場合 被保険者とは異なる契約者が保険契約期間中に死亡した場合は、契約者の変更を行います。 2.相続時の税務上の取扱い 引き継いだ生命保険は、「生命保険に関する権利」として相続税の課税対象となります。 (1)評価額 評価額は、原則、契約者が死亡した時点の解約返戻金の額となります。 ただし、ご相談のケースのように、保険料が前納されており解約返戻金とは別に受け取ることができる未経過保険料がある場合や、配当金等がある場合は、解約返戻金に未経過保険料や配当金の額を加えた額が評価額になります。 なお、解約返戻金の額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額がある場合は、当該金額を控除することができます。 (2)相続財産の評価 “生命保険”となると、死亡保険金の非課税枠を思い浮かべるかと思います。 しかし、ご相談のケースは保険事故が発生していない生命保険であり、本来の財産として取扱われます。死亡保険金の非課税枠(※)の適用ができる被相続人の死亡を保険事故として受け取る生命保険とは異なるため、死亡保険金の非課税枠を適用することはできません。
3.満期保険金に係る税務上の取扱い 将来質問者(A)様が受け取る満期保険金は、契約者と満期保険金受取人が同一であるため、所得税(一時所得)の対象となります。一時所得の計算においては、相続により権利を引き継いだ生命保険は、引き継いだ契約者自らが当初から保険料を負担したものとして取扱います。 なお、契約者が被保険者より先に亡くなって引き継がれる生命保険は、相続財産の確認において漏れやすいため、税制改正により保険会社から税務署へ発行される調書の見直しがされており、現状では死亡により契約者が変更された一定の契約については、一定事項を記載した支払調書が所轄税務署長へ提出されることとなっています。 税務署にとっては死亡による契約者変更の事実を把握しやすくなりましたが、ご遺族としてはどのように扱えばよいか分かりづらい契約形態であることには変わりありません。 |
財産評価における誤りやすい事例/株式が未分割である場合の議決権割合の判定
財産評価における誤りやすい事例/株式が未分割である場合の議決権割合の判定
財産評価の処理における誤りやすい項目について、大阪国税局が作成した
「資産課税関係 誤りやすい事例 財産評価関係 令和2年分」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、取引相場のない株式の評価における株主区分の判定についてです。
誤った取扱い
未分割の取引相場のない株式を評価する場合
各相続人に適用されるべき評価方式を判定するに当たって
基礎となる「株式取得後の議決権の数」について
当該未分割の株式を法定相続分により取得したものとして計算した議決権の数とした。
【具体的な事例】
未分割株式 10,000株
法定相続人 被相続人の子4名
法定相続分 4分の1
各相続人は、未分割株式10,000株のうち2,500株(10,000株×1/4)を
取得したものとして判定した。
正しい取扱い
相続人ごとに、その所有する株式数にその未分割の株式数の全部を加算した数に
応じた議決権数とする
(評基通188、評価明細書通達第1表の1【3(5)イ】
国税庁HP質疑応答事例「遺産が未分割である場合の議決権割合の判定」)。
【具体的な事例】
未分割株式 10,000株
法定相続人 被相続人の子4名
法定相続分 4分の1
各相続人は、未分割株式の全部(10,000株)を取得したものとして
それぞれ判定する。
コメント
株主区分の判定について
このような事例は間違いやすいです
ご注意ください
土地等譲渡所得における誤りやすい事例/配偶者居住権を設定した建物の譲渡
配偶者居住権を設定した建物の譲渡
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」
より、ピックアップしてご紹介します。
今回は、配偶者居住権を設定した建物の譲渡についてです。
誤った取扱い
令和3年4月に夫が死亡し、夫が10年前に購入した自宅について
配偶者居住権を設定した。
令和3年11月、配偶者居住権の目的となっている建物及び当該建物の敷地を
譲渡したので分離短期譲渡所得として計算を行った。
正しい取扱い
配偶者居住権及び配偶者敷地利用権は
分離課税の対象となる土地等・建物等には該当しないため総合課税の対象となる。
また、被相続人の取得日以後5年を経過する日以後に生じる配偶者居住権の消滅は
短期譲渡所得の対象から除き、長期譲渡所得として課税される
(所法60②、③ 所令82②、③)。
したがって、当該所得は総合長期譲渡所得となる。
出典:大阪国税局「資産課税関係 誤りやすい事例(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度/共有の場合の床面積判定
[相談]
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度について
その制度の対象となる住宅用家屋を共有で取得した場合の床面積の判定は
その共有持分に応じた床面積で行うこととなるのでしょうか。
[回答]
ご相談の制度においては、共有の場合であっても
床面積の判定はその家屋全体の床面積で行うこととなります。
[解説]
1.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度の概要
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税とは
令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に、直系尊属からの贈与により
住宅取得等資金の取得をした特定受贈者(※1)が一定の要件(※2)に該当するときは
原則として、その贈与により取得をした住宅取得等資金のうち住宅資金非課税限度額
(最大1,000万円(※3))までの金額については
贈与税の課税価格に算入しないという制度です。
- ※1 特定受贈者とは、直系尊属から贈与により財産を取得した個人のうち
- 住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の1月1日において18歳以上であって
- その年分の所得税法上の合計所得金額が2,000万円
- (住宅取得等資金を充てて新築等をした住宅用家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満である場合には、1,000万円)
- 以下である人をいいます。
- ※2 特定受贈者が、贈与により住宅取得等資金の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに
- その住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の新築等のための対価に充ててその住宅用家屋の新築等を
- した場合等において、同日までに新築等をした住宅用家屋をその特定受贈者の居住の用に
- 供すること等が要件となります。
- ※3 住宅資金非課税限度額は、特定受贈者ごとに、その住宅用家屋が省エネ等住宅である場合には
- 1,000万円、それ以外の住宅用家屋である場合には500万円と定められています。
2.共有の場合の床面積の判定方法
上記1.の住宅用家屋の床面積については
その登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下であることのほか
その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専らその特定受贈者の
居住の用に供されるものであることも要件とされています。
上記の床面積の判定については
その住宅用家屋が2人以上の者で共有されている家屋である場合には
その家屋全体の床面積により行うこととされています。
したがって、今回のご相談の場合、共有で取得した住宅用家屋の床面積の判定は
共有持分に応じた登記簿床面積ではなく
その家屋全体の登記簿床面積により行うこととなります。
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度と暦年課税の基礎控除との併用可否
[相談]
私はこのたび、住宅を新築することとなりました。
それにあたって、両親からその新築費用の一部の贈与を受ける予定です。
そこでお聞きしたいのですが、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の
贈与税の非課税制度と、贈与税の暦年課税の基礎控除(110万円)の規定は
併用できるのでしょうか。
[回答]
ご相談の非課税制度は、暦年課税の基礎控除と併用可能です。
[解説]
1.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度の概要
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税とは
令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に、直系尊属(自分の両親、祖父母など)
からの贈与により住宅取得等資金の取得をした特定受贈者(※1)が
一定の要件(※2)に該当するときは、原則として
その贈与により取得をした住宅取得等資金のうち住宅資金非課税限度額
(最大1,000万円(※3))までの金額については、贈与税の課税価格に算入しない
(=贈与税が非課税になる)という制度です。
- ※1 特定受贈者とは、直系尊属から贈与により財産を取得した個人のうち
- 住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の1月1日において18歳以上であって
- その年分の所得税法上の合計所得金額が2,000万円
- (住宅取得等資金を充てて新築等をした住宅用家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満である場合には、1,000万円)
- 以下である人をいいます。
- ※2 特定受贈者が、贈与により住宅取得等資金の取得をした日の属する年の
- 翌年3月15日までにその住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の新築等のための対価に
- 充ててその住宅用家屋の新築等をした場合等において、同日までに新築等をした
- 住宅用家屋をその特定受贈者の居住の用に供すること等が要件となります。
- ※3 住宅資金非課税限度額は、特定受贈者ごとに
- その住宅用家屋が省エネ等住宅である場合には1,000万円
- それ以外の住宅用家屋である場合には500万円と定められています。
2.贈与税の基礎控除額との併用可否
贈与税額は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与により取得した財産の価額を合計して
「課税価格」を計算し、さらに、その課税価格の合計額から110万円(贈与税の暦年課税の基礎控除額)
を差し引いた金額に対して一定の贈与税率を乗じて計算した金額の合計額となります。
上記の贈与税の基礎控除額(110万円)の規定と
上記1.の直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度の規定は
併用可能ですので、例えば、上記1.の住宅取得資金非課税限度額が500万円である場合には
基礎控除額110万円とあわせた610万円まで贈与税非課税となります。
[参考]
相法21の5、措法70の2、70の2の4、70の2の5、措令40の4の2など
遺留分侵害額の請求に基づく資産の移転の際の所得税
事例紹介
土地等譲渡所得の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例
(土地等譲渡所得関係 令和3年分用)」より、ピックアップしてご紹介します。
誤った取扱い
令和3年8月に死亡した父からの相続に当たり
遺留分侵害額の請求を受けたが、金銭の支払に代え
相続した財産のうち自己が保有していた土地及び建物を遺留分権利者に引き渡した。
この場合は、相続手続の一環なので譲渡所得の申告は不要とした。
正しい取扱い
遺留分侵害額の支払請求があった場合において 金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは その履行をした者は、原則として その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により その資産を譲渡したことになります(所基通33-1の6)。 なお、この取扱いは 令和元年7月1日以後に開始した相続に係る遺留分侵害額の請求があった場合について適用される。 ※遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて 移転を受けた資産の取得費については、所基通38-7の2を参照のこと。 ****************** 近江清秀公認会計士税理士事務所 651-0087神戸市中央区御幸通8-1-6 神戸国際会館17階 (Tel)078-959-8522 (Fax)078-959-8533
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保険金受取人がすでに亡くなっている場合
[相談]
先日、夫が亡くなり、夫が加入していた生命保険契約を確認したところ
受取人が離婚した前妻Aに指定されたままになっている契約が見つかりました。
確認したところ、前妻はすでに亡くなっていました。
前妻には再婚した配偶者がいますが、両親、子どもはいません。
また、夫と前妻の間にも子どもはいません。
この契約の死亡保険金は誰が受け取るのでしょうか?
また、今からでも受取人を変更することは可能ですか?
【契約内容】
- 保険種類:終身保険
- 契約者(保険料負担者)、被保険者:夫
- 受取人:前妻A(すでに死亡。Aには再婚した配偶者がいる)
- 保険料:Aとの婚姻期間中に払込完了
[回答]
死亡保険金の受取人は、Aの配偶者になります。
また、すでに被保険者が亡くなっているため、受取人を変更することはできません。
[詳細]
1.今回のケースにおける死亡保険金の受取人
死亡保険金請求権は、被保険者(=ご主人様)が
亡くなった時点で受取人に指定されているAの権利になります。
そのため、受け取る死亡保険金はAの固有の財産として扱われます。
Aがすでに亡くなっている場合、固有の財産である死亡保険金は
Aの相続人が受取人となります。今回の受取人は、Aの配偶者です。
2.死亡保険金の受取人の変更
生命保険契約において、受取人の指定は保険期間中に契約者が
被保険者の同意を得て行う権利です。
今回、ご主人様が亡くなっているため、受取人の変更はできません。
3.死亡保険金の受取人の課税関係
Aの配偶者が受け取った死亡保険金は、「遺贈」により取得したものとされ
「みなし相続財産」として相続税の対象になります。
税負担が発生するか否かは、ご主人様の相続財産総額によりますが
Aの配偶者はご主人様の法定相続人ではないため
相続税の計算においては、生命保険の非課税枠(※1)は適用できず
税額は2割加算(※1)の対象となります。
- ※1 (500万円×法定相続人)を限度として
- 相続税の計算上非課税とすることができる。
- ※2 相続、遺贈によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族
- (代襲相続人となった孫(直系卑属)を含む。)及び配偶者以外の人である場合には
- その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算される。
単純な手続きの失念か意図的かは分かりませんが
立場によっては不本意な遺産分割や揉め事を招くおそれがありますので
結婚、離婚など環境が大きく変わるときには目に見える財産に関する協議は勿論のこと
保険金受取人についてもきちんと確認・協議しておくことが大切です。
遺産未分割と更正の請求
相続開始後、遺産分割協議が調わないままに申告期限を迎えることがあります
こうした場合、一旦は法定相続分で申告した後、分割確定時に更正の請求
(税金の還付手続き)をすることができます。
ただし、その分割確定に伴って二次相続の申告税額が変動する
ような場合には、同特則を適用することができない点に留意する必要があります
相続財産の全部又は一部が未分割のまま相続税の申告期限を迎える場合
未分割財産は法定相続分等に従って遺産を取得したものとして課税価格を計算し
申告します。
例えば、被相続人である父に係る未分割財産が2億円で、相続人が母・子2人の場合
法定相続分に従い、母が1億円、子2人がそれぞれ5,000万円ずつ取得したとして
相続税を計算して申告します。
その後、遺産分割が確定し、実際の取得額は母が8,000万円
子2人がそれぞれ6,000万円となり、母の税額が減少した場合
母は更正の請求(税金の還付手続き)の特則を適用できます。
この場合、税額が増加する子2人は修正申告を行う必要があります。
このとき、父に係る相続(一次相続)の後、遺産分割の確定前に母が亡くなり(二次相続)
二次相続についても申告期限を迎え、母の一次相続に係る取得財産を法定相続分で申告していた場合
一次相続の遺産分割確定に伴い、二次相続の税額が減少する可能性があります。
しかし、相続税法の更正の請求の特則は、あくまで未分割の遺産が生じた相続にのみ適用できるものです。
一次相続の分割確定に伴い二次相続の税額に変動があったからといって
二次相続について特則による更正の請求は適用できませんので注意が必要です
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成年年齢引下げに伴う贈与税率の改正~特例税率の適用~
[相談]
今年(2022年)3月に高校を卒業した孫(18歳)が大学へ進学したため
お祝いとして2022年3月に400万円贈与しました。
成年年齢の引下げにより4月に成人となったため
8月の19歳の誕生日に成年祝いを兼ねて500万円贈与するつもりです。
この場合、適用される贈与税率はどのようになりますか。
なお、贈与税は暦年課税により計算します。
[回答]
贈与税について暦年課税により計算するものとした場合、
お孫さんは2022年1月1日現在18歳となるため
3月の贈与400万円は一般税率の適用となり
8月の贈与500万円は特例税率を適用します。
[詳細]
1.贈与税とは
贈与税とは、原則、個人から財産をもらったときに課税される税金のことをいいます。
個人から財産を直接もらう他、
例えば個人から借りていたお金の返済を免除してもらった場合のいわゆる
「経済的利益」に対しても、贈与を受けたとみなされて贈与税がかかります。
一方で、例えば生活費や教育費に充てるために通常必要と認められる親からの仕送りなど
財産をもらったとしても贈与税がかからない場合もあります。
2.贈与税の計算
贈与税は
(1)暦年課税
(2)相続時精算課税
の2つの計算方法があり、(2)は一定の要件に該当する場合に自ら選択することで適用することができます。
今回のケースは(1)により計算する前提ですので、以下では暦年課税について説明します。
3.暦年課税
暦年課税は、その年の1月1日から12月31日までの1年間のうちにもらった
(贈与を受けた)財産の合計額から基礎控除額(110万円)を差し引いた
残額に対して贈与税を計算する方式です。
【計算式】 (財産の合計額-110万円)×贈与税率 |
この場合の贈与税率については、贈与者(あげた人)と受贈者(もらった人)
との続柄や受贈者の年齢に応じて、適用する税率が「一般税率」と「特例税率」に分かれます。
(1)一般税率
次の(2)の特例税率の適用を受けられない場合
(例えば、父母や祖父母などの直系尊属以外の贈与者から財産をもらった場合や
贈与の年の1月1日現在において受贈者が未成年者である場合)には、「一般税率」を適用します。
この「一般税率」の適用がある財産を「一般贈与財産」といいます。
(2)特例税率
次のいずれにも該当する場合には、「特例税率」を適用します。
この「特例税率」の適用がある財産を「特例贈与財産」といいます。
① 受贈者から見て贈与者が直系尊属であること
② 受贈者の年齢が贈与の年の1月1日現在において成年年齢に達していること
4.成年年齢引下げに伴う改正
これまで成年年齢が「20歳」であったため
上記3.(2)②の年齢について、贈与の年の1月1日現在において「20歳以上」か否かで判定をしてきました。
法律上も「20歳以上」と規定されていました。
これが民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い
法律上の年齢要件も「18歳以上」と改正されて、「18歳以上」か否かで判定することとなりました。
この改正は2022年4月1日以後の贈与から適用となるため、2022年中の贈与はこれまでの判定要素に加え
「何月の贈与」なのかも確認しないと計算ができないこととなります。
5.ご相談のケース
ご相談のケースは、お孫さんは2022年1月1日現在、18歳です。
改正前の3月の贈与は「20歳以上」か否かで判定するため
「一般税率」の適用となります。
他方、改正後の8月の贈与は「18歳以上」か否かで判定するため
「特例税率」を適用します。
このように適用する税率が異なることとなりますので、ご注意ください。
なお、同一の年に「一般税率」と「特例税率」の両方がある場合の贈与税の計算は少し特殊です。
また、「特例税率」を適用する場合に一定の要件に該当するときは
申告の際に一定の書類の添付が必要となります。
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預金の相続手続きと遺産の未分割申告
[相談]
被相続人は父親、相続人は長男と長女の2名です。
相続財産は預貯金と土地(宅地)です。
相続開始後、長女の承諾のもと、長男は預貯金のすべてについて
相続による名義替えを行い、自身の口座に入金しました。
現在、相続財産目録を作成して分割協議の途中ですが、納税額が多額になること
今後の土地の管理(売却等)について考えがまとまらず
未分割のままで相続税の申告を行うことを検討しています。
この場合、既に長男の口座に入金した預貯金について
「代償金の振替額が未定の預り金」として未分割財産として
取り扱うことはできますか。
[回答]
金融機関が被相続人口座からの預貯金の払戻し手続きに際し
どのようなケースで認めるのかやどのような書類を要求するのかは
各金融機関で異なります。
ご相談のケースでは、金融機関は、遺産分割協議はまだ済んではないものの
特定の相続人が他の相続人全員の委任を受けて払戻すことを許容しており
その結果、遺産分割協議は未了だが、他の相続人全員からの委任を受けた払戻
であることが確認できたことから、長男口座にすべて入金されているという
状態となっているのではないかと推測されます。
(少額の預金であれば、例外的に相続人の代表者だけの手続きで処理できる
ことがありますが、相応の金額の場合、相続人全員の署名押印(印鑑証明)は必要と思います。)
この場合、長男口座への入金は、あくまで相続人全員の共有財産としての預貯金
の管理としての意味しかなく、法律上預り金にすぎないため
その後に遺産分割協議をして、預貯金について誰が相続するか決めることが
予定されていると考えられます。
したがって、長男口座に入金されている被相続人の預貯金を、未分割の遺産として扱うことは可能であり
遺産分割は未了として相続税申告を行うということで問題ないと思われます。
なお、相続人が上記の意図で払戻(長男口座で管理)を選択したのであれば
特に残すべき書類もないと思いますが、この点が明確でないのであれば
被相続人名義の口座を解約して払い戻した金額は、未分割の遺産として
長男名義の口座で管理する、という覚書のようなものを相続人で残しておいた方が良いかもしれません。
(この書面が調印できるのであれば、そもそも未分割という認識があるので
問題になることもないと思いますが。)
相続等により取得した土地所有権の国庫帰属制度
[相談]
先日父親が亡くなり、土地を相続しました。私は別の場所で生活しているので
処分を考えています。
いらない土地を国にもらってもらえると聞いたのですが、可能でしょうか。
[回答]
令和5年4月27日から相続又は遺贈により土地の所有権を取得した者は
その土地を国庫に帰属させることができるようになります。
国庫に帰属させるためには、まず、法務大臣に対して承認申請手数料を支払い
承認申請します。
承認申請は、その土地が次のいずれかに該当するものであるときは
申請をすることができません。
- 1.建物の存する土地
- 2.担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
- 3.通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
- 4.土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
- 5.境界が明らかではない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
法務大臣は承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは
その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければなりません。
- 1.崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
- 2.土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
- 3.除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
- 4.隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることが
- できない土地として政令で定めるもの
- 5.1から4に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり
- 過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
申請の内容によっては、法務局職員による当該土地の実地調査を受けることがあり
その際は、調査に協力する必要があります。
なお、承認申請が認められた後、10年分の管理に要する費用としての負担金を申請者が納付したとき
土地の所有権が国庫に帰属します。
土地の処分方法としては、売却する方法もあるので
十分検討の上で処分されたほうが良いでしょう。
その際はお近くの司法書士などの専門家へのご相談をお勧めします。
相続財産の寄附と相続税の取扱い
[相談]
父の相続財産の一部を寄附しようと思います。
寄附先は、父が生前お世話になっていた有料老人ホームを経営している社会福祉法人です
実は生前、父から「自分が亡くなった後にA銀行の定期預金を寄附してほしい」
と口頭で伝えられていました。
ただし、遺言書などはありません。
実際に寄附を行った場合、相続税は軽減されるのでしょうか?
[回答]
ご相談のケースで寄附を行う場合、一定の条件を満たせば
寄附の対象となるA銀行の定期預金について相続税の計算から外すことができ
相続税が軽減されます。
[詳細]
1.相続人の意思による寄附
自分が亡くなったら財産を寄附する、という場合には
「どこ(誰)へ、何を(いくら)寄附する」という意思表示を
正式な遺言書という形で遺す必要があります。
今回のご相談のケースでは、お父様の遺言書はないとのことですから
お父様の遺志で寄附することはできません。
このような場合には、一度相続の手続を行って相続した後
相続人から寄附をする、という手続になります。
例えご本人が生前に「寄附したい」と周囲の方に伝えていても
相続人にその意思がなければ寄附は実行されません。
2.相続税の取扱い
相続財産を寄附した場合に以下の要件をすべて満たすと
寄附した財産について相続税の対象としない特例があります。
- ①寄附した財産が、相続や遺贈によって取得した財産であること
(相続財産を換金した後の現金を寄附した場合などは、対象となりません。) - ②相続税の申告期限までに、相続した財産を寄附すること
(相続日から10ヶ月後の応答日までに寄附をしなければなりません。) - ③寄附先が、国、地方公共団体、その他教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる特定の公益法人であること
(特定の公益法人の範囲は、独立行政法人や社会福祉法人などに限定されており - 寄附時点ですでに設立されている必要があります。
- 該当するか否かは事前に寄附予定先へお問合せください。)
ご相談のケースにおいて、上記要件をすべて満たすと
寄附をした相続財産(A銀行の定期預金)を相続税の対象から外すことができます。
3.その他の留意点
ご相談のケースの場合は、相続人からの寄附となるため
寄附をした相続人の所得税の計算上
寄附金控除または税額控除の適用を受けられるかどうか検討しましょう。
適用については、寄附先である社会福祉法人が適用できる対象先でなければなりません。
この点についても、事前に寄附先の社会福祉法人へお問合せいただくとよいでしょう。
なお、上記2.や3.の適用をする場合には、申告時の手続が必要となります。
成年年齢引き下げに伴う相続税の改正~未成年者控除の改正~
[相談]
相続人が未成年者の場合、「未成年者控除」として満20歳に達するまでの年数に応じた
一定の金額を相続税額から控除してもらえると聞いています。
2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが
この「未成年者控除」はどうなるのでしょうか?
[回答]
成年年齢の引き下げにあわせて、「未成年者控除」が適用できる
年齢や控除額の計算が改正されました。
[詳細]
1.未成年者控除とは
相続人が未成年者である場合には、相続税の額から一定の金額を控除します。
この控除を「未成年者控除」といいます。
未成年者控除を適用できるのは、次のすべての要件を満たす人です。
- (1)相続又は遺贈により財産を取得した法定相続人
- (日本国籍を有していない人など、一定の人は対象外です。)であること
- (2)上記(1)の法定相続人とは、相続の放棄があった場合には
- その放棄がなかったものとした場合における相続人であること
- (3)上記(1)の法定相続人は、その相続又は遺贈により財産を取得したときに未成年者であること
上記(3)の「未成年者」の年齢が2022年3月までは「20歳未満」でした。
これが、民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い
未成年者控除における「未成年者」の年齢も2022年4月から「18歳未満」に引き下げられました。
2.未成年者控除額
未成年者控除額は、以下の算式により計算します。
【控除額】 10万円×成年に達するまでの年数(1年未満切上) |
「成年」とは、2022年3月までは「満20歳」でした。
これが、2022年4月からは民法の成年年齢にあわせて「満18歳」に改正されました。
つまり、2022年4月からの控除額の計算は、以下の通りとなります。
【控除額】 10万円×満18歳に達するまでの年数(1年未満切上) |
3.適用開始時期
この改正は、2022年4月1日以後の相続又は遺贈から適用されます。
4.留意点
未成年者控除については、未成年者本人の相続税額より
控除額が大きくなり引ききれない場合があります。
この場合には、その引ききれない部分をその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引きます。
今回の改正により、単純計算で控除額が最大20万円(2年×10万円)
減少することとなりますので
このような引き切れない部分を差し引ける金額も当然少なくなることが予想されます。
孫養子などで未成年者を相続人とした場合に有効活用してきたこの未成年者控除について
今般の改正点を改めてご確認ください。
なお、すでに未成年者控除の適用を受けたことがある場合には
一定の控除限度額の計算があります。その点もご留意ください。
過去に税額計算をシミュレーションされた方は見直されるとよいでしょう。
財産評価における誤りやすい事例/相当の地代を支払っている場合の借地権の価額
財産評価の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例 財産評価関係 令和2年分」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、「取引相場のない株式(純資産価額方式)」における
相当の地代を支払っている場合の借地権の価額についてです。
誤った取扱い
被相続人は、所有するA土地を甲社(被相続人が同族関係者となっている同族会社)
に相当の地代を収受して貸し付けていた。
甲社株式の評価において、A土地に係る借地権について
資産の部への計上は不要とした。
正しい取扱い
株式の評価をする場合において
被相続人が同族関係者となっている同族会社に相当の地代を収受して
土地を貸し付けている場合
自用地としての価額の20%に相当する額を借地権の価額として
資産の部に計上する
(昭43直資3-22「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」、地代相当通達6(注))
出典:大阪国税局「資産課税関係 誤りやすい事例 財産評価関係 令和2年分」
住民票と戸籍の附票の違い
[質問]
先日、役所に戸籍抄本を取りに行ったのですが
申請書記入の際に【戸籍の附票】という欄がありました。
私は戸籍の附票を知らなかったので役所の方に聞いたところ
「住所を証明するものです。」と教えていただきました。
住所を証明するのは住民票ではないのでしょうか。
[回答]
戸籍の附票と住民票は似ていますが、違いがあります。
戸籍の附票は名の通り、戸籍に付随しているものです
(住民基本台帳法(以下「法」という)第16条)。
その戸籍が作られてから、現在もしくはその戸籍から除籍されるまでのすべての住所が記載されています。
本籍地の市町村と特別区に戸籍の原本と一緒に保管されているため
本籍地での請求が必要となります。
住民票は居住を記録するものです(法第5条・第6条)。
現在の住所地を管理するため住民登録をするので、現住所の市町村で取得する必要があります。
現住所の前に住民登録をしていた住所があるときは、従前の住所が記載されます。
住民票と戸籍の附票の違いについて下記表にまとめました
(法第7条・第12条・第17条・第20条)。
自治体によって記載内容が異なる場合があります。
省略されているものについては、申し出があれば記載されます。
基本的に住民票は現在の住所を証明するものであり
戸籍の附票はその戸籍が作られてから除籍されるまでのすべての住所を証明するものといえます。
戸籍の附票が必要になるのは相続の際や
自動車の名義変更で住民票では足らない事由があった場合などです。
いざ必要となったときに請求先を間違えないように気を付けてください。
成年年齢引き下げによる結婚・子育て資金の贈与税非課税制度の年齢要件の改正
[相談]
このたび、私の子(19歳)が令和4年末に結婚することとなりました。
その結婚資金(挙式費用など)について、6月に私から子への贈与を検討しているのですが
この贈与について、結婚・子育て資金の贈与税非課税制度は適用できるのでしょうか。
[回答]
ご相談の贈与については、
結婚・子育て資金の贈与税非課税制度を適用できるものと考えられます。
[解説]
1.民法改正による成年年齢の引き下げと婚姻適齢
平成30年に明治9年以来約140年ぶりに成年年齢の見直しが行われ
同年6月13日に、成年年齢を20歳から18歳に引き下げるという改正民法が成立しました。
その改正民法は、令和4年(2022年)4月1日から施行され、婚姻適齢については
男女ともに「婚姻は、十八歳にならなければ、することができない。」と定められています。
2.結婚・子育て資金の贈与税非課税制度の概要
贈与により財産を取得した場合には、原則、贈与税がかかります。
ただし、贈与があっても贈与税が課されない、一定の非課税制度が用意されています。
その非課税制度の中に、「結婚・子育て資金の贈与税非課税制度」があります。
結婚・子育て資金の贈与税非課税制度とは、令和5年3月31日までの間に
個人が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき
受贈者の直系尊属(父母・祖父母など)から
①信託受益権を付与された場合
②書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合
③書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等において有価証券を購入した場合には、
それらの信託受益権や金銭等の価額のうち1,000万円までの金額に相当する部分については
金融機関等の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することにより
原則として、贈与税が非課税となる制度です。
上記の制度における「個人」については年齢要件が設けられており
従前は「20歳以上50歳未満」と定められていましたが
上記1.の改正に伴い
令和4年(2022年)4月1日以後の信託受益権または金銭等の取得からは
「18歳以上50歳未満」と改正されました。
このため、今回のご相談における令和4年末に結婚する
子への結婚資金の贈与については、原則として
上記の贈与税非課税制度が適用できることとなります。
- (注)結婚・子育て資金の贈与税非課税制度における年齢の判定日は
- 「結婚・子育て資金管理契約締結の日」と定められています。
保険証券の紛失と“終活”への備え
[相談]
60代の半ばとなり、そろそろ“終活”に向けた準備をしていきたいと思い
資産内容を把握しはじめたところ、生命保険で躓いてしまいました。
毎年、生命保険料控除証明書は届くので、何となくどこの保険会社かはわかるのですが
控除証明書以外の書類は毎年破棄して残っていませんし
保険証券はどこにあるのか分かりません。このような場合どうしたらよいのでしょうか。
また、“終活”に向けた準備をしていく中でのポイントなど、アドバイスもお願いします。
[回答]
保険証券がどこにあるのか分からない、ということであれば
まず再発行の手続きをとるとよいでしょう。
また、“終活”に向けた準備をされるのであれば、資産の棚卸をするとともに
相続人は誰になる予定か、相続税はどのくらいかかるのかも
あわせて把握されるとよいでしょう。
[詳細]
1.生命保険の内容の把握
生命保険を契約すると、保険証券を受け取ります。
この保険証券は、保険金を受け取るとき、中途解約時に解約返戻金を受け取るとき
また契約内容を変更するときなどに必要となります。
仮に保険証券を紛失していても保障は継続しており
保険契約者の本人確認ができれば諸手続きをすることが可能です。
ただし、保険証券には契約内容が記載されていますので
紛失されたのであれば再発行の手続きをとることをお勧めします。
なお、再発行の手続きは
年に1回届く契約内容のお知らせや控除証明書に記載のある連絡先へ連絡し
指示を受けるとよいでしょう。
2.“終活”に向けた準備
“終活”に向けた準備をされるのであれば、資産の把握(=棚卸)をするとともに
相続人となる方は誰か、相続税はどのくらいかかるのかの把握もされるとよいでしょう。
どのような書類があればこれらの把握ができるのか、参考までに記載しました。
(1)財産を把握するための資料(例)
(2)相続人となる予定の人を把握するための資料(例)
戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
(3)相続税の試算
相続税は、上記の資料などによって資産の一覧を作成し
相続人を把握した上で、資産評価を行うなどをして計算することとなります。
一部相続税が課税されない財産などもありますので
国税庁サイトの情報を参考に試算してみるとよいでしょう。
預金の相続手続きと遺産の未分割申告
[相談]
被相続人は父親、相続人は長男と長女の2名です。
相続財産は預貯金と土地(宅地)です。
相続開始後、長女の承諾のもと、長男は預貯金のすべてについて
相続による名義替えを行い、自身の口座に入金しました。
現在、相続財産目録を作成して分割協議の途中ですが
納税額が多額になること、今後の土地の管理(売却等)について考えがまとまら
未分割のままで相続税の申告を行うことを検討しています。
この場合、既に長男の口座に入金した預貯金について
「代償金の振替額が未定の預り金」として未分割財産として取り扱うことはできますか。
[回答]
金融機関が被相続人口座からの預貯金の払戻し手続きに際し
どのようなケースで認めるのかやどのような書類を要求するのかは
各金融機関で異なります。
ご相談のケースでは、金融機関は、遺産分割協議はまだ済んではないものの
特定の相続人が他の相続人全員の委任を受けて払戻すことを許容しており
その結果、遺産分割協議は未了だが、他の相続人全員からの委任を受けた
払戻であることが確認できたことから、長男口座にすべて入金されている
という状態となっているのではないかと推測されます。
(少額の預金であれば、例外的に相続人の代表者だけの手続きで
処理できることがありますが、相応の金額の場合、相続人全員の署名押印
(印鑑証明)は必要と思います。)
この場合、長男口座への入金は、あくまで相続人全員の共有財産としての
預貯金の管理としての意味しかなく、法律上預り金にすぎないため
その後に遺産分割協議をして、預貯金について誰が相続するか
決めることが予定されていると考えられます。
したがって、長男口座に入金されている被相続人の預貯金を
未分割の遺産として扱うことは可能であり
遺産分割は未了として相続税申告を行うということで問題ないと思われます。
なお、相続人が上記の意図で払戻(長男口座で管理)を選択したのであれば
特に残すべき書類もないと思いますが、この点が明確でないのであれば
被相続人名義の口座を解約して払い戻した金額は、未分割の遺産として
長男名義の口座で管理する、という覚書のようなものを相続人で残しておいた方が良いかもしれません。
(この書面が調印できるのであれば、そもそも未分割という認識があるので
問題になることもないと思いますが。)
遺言による保険金の受取人の変更
[相談]
下記の生命保険について
仮に妻が先に亡くなった場合には、世話になっている姪に受け取って欲しいと思っています。
妻が先に亡くなった時点で、私が死亡保険金の受取人を変更できればよいのですが
そうでない状況を想定して、遺言で受取人を姪に変更しておきたいと思っています。
これは、可能でしょうか?
【生命保険の契約内容】
- 契約者(保険料負担者):私
- 被保険者:私
- 死亡保険金受取人:妻
[回答]
遺言で生命保険金の受取人を変更することは可能ですが
諸条件を満たしている必要があります。
[詳細]
1.保険法改正により可能となった遺言による保険金受取人の変更
2010年4月1日に施行された「保険法」で、遺言による保険金受取人の変更が可能となりました。
原則、保険法施行後の契約が対象となりますが、保険会社によってその取扱いは異なります。
2.留意点
遺言によって保険金受取人を変更するときの、主な留意点は以下の通りです。
(1)変更の可否を確認
多くの保険会社は「法律上有効な遺言であれば
受取人に指定できる方の範囲に定めはない」としているようですが
変更可能な受取人の範囲を約款で決めている保険会社もあります。
遺言書を作成する前に、必ず受取人として指定できるかどうか、確認するようにしましょう。
(2)遺言書の記載内容
遺言によって保険金受取人を変更するときは
どの保険契約か特定できるような情報を遺言書に記載します。
この場合の「情報」とは、保険会社、証券番号、契約者、被保険者
保険種類、契約日などが該当しますが、特定できれば複数の情報の記載は必要ありません。
遺言書の例文 第〇条 私は、私が契約者となっている次の生命保険契約における 死亡保険金受取人として、姪◇◇を指定する。 (保険契約の表示) |
(3)遺言による保険金受取人の変更手続き
遺言による保険金受取人の変更手続きを行うには
保険契約者の相続人が遺言による保険金受取人変更について
保険会社に申し出なければなりません。
その際に、一定の書類の提出が必要な場合があります。
必要となる主な書類は以下のとおりですが、保険会社によって異なるため
予め約款などで確認したり、保険会社へ問い合わせをしたりするとよいでしょう。
- 申し出をするための書類
- 遺言書の写し
- 検認済証明書の写し(遺言が公正証書遺言でない場合)
- 保険契約者の戸籍謄本
- 相続人もしくは遺言執行人の印鑑証明書
- これらの他にも、被保険者の同意が必要であること、保険会社の取扱要件を満たすことや
- 遺言書自体が法律上有効でなければならないなど、遺言による保険金受取人の変更には留意点があります。
大学へ入学する孫に対する住宅取得等資金の贈与
[相談]
2022年4月に孫が大学へ入学するために、上京することになりそうです。
一人暮らしを希望していることから、マンション一室を孫が購入する予定です
通学中は孫自身が利用し、卒業して他に引っ越す場合は賃貸用へ
転用できる立地の良い物件を検討しています。
購入資金は私から孫に贈与して、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置を
適用したいと考えていますが、適用は可能でしょうか。
気になっている点は、孫の年齢が2022年1月1日時点で18歳6ヶ月であることと
購入予定であるマンションはリノベーション済みですが築25年を超えている点です。
なお、その他の要件はすべて満たすと仮定してください。
[回答]
懸念されている2点のうち、少なくとも受贈者であるお孫さんの年齢については
令和4年度税制改正により改正されることで要件を満たすことができます。
ただし、適用開始日が2022年4月1日以後の贈与となる点にご留意ください。
詳細は以下、解説をご参照ください。
[詳細]
1.住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置とは
父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築
取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下、住宅取得等資金)を取得した場合において
一定の要件を満たすときは、一定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。
これを「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置(以下、非課税措置)」といいます。
この非課税措置については適用期間が定められており
これまでは令和3年(2021年)12月31日が適用期限でしたが
これが令和4年度税制改正により2年延長され、令和5年(2023年)12月31日となります。
2.懸念されている2点について
(1)受贈者の年齢要件
これまで受贈者の年齢要件は、「贈与を受けた年の1月1日において
20歳以上であること」でした。
これが令和4年度税制改正により、令和4年(2022年)4月1日以後の贈与から
“20歳以上”が“18歳以上”に引き下げられました。
そのため、住宅取得等資金の贈与が令和4年(2022年)4月1日以後であれば
お孫さんの年齢が18歳でも問題ありませんが、それより前ですと適用することはできません。
(2)築年数の要件
建築後使用されたことのある住宅用の家屋については
これまで「その取得の日以前20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)に建築されたもの」
という、築年数の要件がありました。
これが令和4年度税制改正により、令和4年(2022年)1月1日以後の贈与から
築年数要件の廃止とともに、新耐震基準に適合している住宅用家屋
(登記簿上の建築日付が昭和57年(1982年)1月1日以後の家屋は
新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなす。)であることの要件が加わります。
そのため、令和4年(2022年)1月1日以後の贈与であれば、たとえ築25年を超えていたとしても
新耐震基準に適合している住宅用家屋であれば、適用することは可能です。
なお、これまで上記築年数を超えていても、一定の書類により証明されたもの等があれば
これまでも適用することは可能でした。この点は今後も変更はないため
一定の書類により証明がされれば、これまでと同様、要件を満たすことができます。
懸念されている点については、以上のようになります。
非課税措置の適用を希望される場合には少なくとも年齢要件を満たせるように
住宅取得等資金の贈与が令和4年(2022年)4月1日以後である必要があります。
上記以外にも令和4年度税制改正により、非課税措置の内容が改正される点があります。
遺産分割前における預貯金の払戻し制度
[相談]
父が先日亡くなり、私が喪主として葬儀を執り行い、葬儀費用も負担しましたが
相続人間での遺産分割協議は時間がかかりそうです。
父の預金で葬儀費用の負担分を賄いたいと考えていますが
「相続人全員で遺産分割協議が成立しなければ、故人の預貯金は凍結され、引き出すことはできない」
と聞きました。
遺産分割協議が成立するまで預貯金の引き出しは全くできないのでしょうか?
[回答]
ご相談の通り、金融機関が預貯金の名義人の死亡を知ることにより
故人の預貯金の口座の入出金は停止、凍結され、故人の預貯金は
相続の手続きが終わるまで基本的に動かすことができなくなります。
しかし、このことにより、相続人が過大な負担を強いられたり
迅速な被相続人の債務の弁済に支障を生じたりすることがあるため
令和元年7月1日施行の改正民法で仮払い制度が創設されました。
当面の費用を必要とする各相続人への簡易迅速な払戻しのため、遺産分割が確定する前でも
他の相続人の同意を得ることなく被相続人の預貯金を引き出すことができようになりました(民法909条の2)。
これにより各相続人は、相続預貯金のうち口座ごとに以下の計算式で求められる額については
家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から他の相続人の同意なしで払戻しを受けることができます。
ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)
からの払戻しは150万円が上限になります。
(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)
<計算例>
普通預金720万円の場合、法定相続分2分の1の相続人(配偶者)への払戻額
720万円×1/3×1/2=120万円 < 150万円
払戻限度額 120万円
なお、これらの制度により払い戻された預貯金は、後日の遺産分割において 調整が図られることになります。 この制度の利用を考えられた場合は、金融機関へのご相談又は お近くの弁護士などの専門家へご相談をお願いいたします。 |
成年年齢引き下げによる暦年贈与の特例税率への影響
[相談]
民法改正により、令和4年(2022年)4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが
贈与税(暦年課税)の特例税率の適用については、どのような影響が生じるのでしょうか。
[回答]
令和4年(2022年)4月1日から、暦年贈与の特例税率の適用を受けられる受贈者の年齢要件が
成年年齢の引き下げに合わせて、18歳以上に改正されました。
[解説]
1. 贈与税額の基本的な計算方法
相続税法上、平成13年1月1日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については
課税価格から110万円(基礎控除額)を控除すると定められています。
また、贈与税の額は、基礎控除額の控除後の課税価格を、次の表
(一般贈与財産用の贈与税の速算表)の上欄に掲げる金額に区分して
それぞれの金額に同表の中欄に掲げる税率を乗じて計算した金額から
下欄の控除額を控除して計算した金額となります。
2. 直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例
上記1.にかかわらず、相続税法上、平成27年1月1日以後に直系尊属からの贈与により財産を取得した者の
の年中のその財産に係る贈与税の額は、基礎控除額の控除後の課税価格を次の表
(特例贈与財産用の贈与税の速算表)の上欄に掲げる金額に区分して
それぞれの金額に同表の中欄に掲げる税率を乗じて計算した金額から
下欄の控除額を控除して計算した金額となります。
上記の特例における「贈与により財産を取得した者」については年齢要件が設けられており
今般の成年年齢引き下げ前は「20歳以上」と定められていましたが
令和4年(2022年)4月1日からは「18歳以上」と改正されました。
なお、上記の年齢の判定日は、贈与年の1月1日と定められていますので、ご留意ください。
納税のための相続不動産売却
[相談]
父親の財産のほとんどが不動産であるため、相続が発生したら相続税は
相続する不動産を売却して納める予定です。
不動産を売却して相続税を納める際の注意事項を教えてください。
[回答]
相続税は、相続開始後10ヶ月以内に納付することが原則となっていますので
その期間内に納税に充てるための不動産の決定や分割協議を行い
不動産の売買契約から決済までを終え、納税まで完了する必要があります。
相続人が1人である場合やあらかじめ買い手が決まっている場合でない限り
非常に厳しいスケジュールになるとお考えください。
[詳細解説]
1.基本的な流れ
遺産分割協議から不動産の引渡しまでの基本的な流れは、以下の通りです。
(1) 遺産分割協議を経て相続財産から売却する不動産を決める (2) 不動産業者へ売却を依頼し、不動産の売り出しを開始する (3) 買い手が見つかれば、買い手と不動産売買契約を締結する (4) 不動産の引渡しをするための準備をする
(5) 不動産の引渡し(代金最終決済) |
2.注意点
上記1.の基本的な流れに沿ったスケジュール感や、主な注意点は以下のとおりです。
(1) 遺産分割協議
相続発生後、遺産分割協議を経て売却する不動産を決めることになりますが
遺産を分割するためには相続人の確定や、相続財産の調査などがあるため
遺産分割協議を開始するまでに数ヶ月必要になることもあります。
(2) 売り出し
相続人間での意見が一致しなければ
不動産の売り出し開始時期は大幅に遅れることになります。
(3) 契約締結
不動産の売り出しが始まれば、1~3ヶ月程度で買い手が見つかるケースもありますが
買い手がなかなか見つからないケースもあります。
(4) 引渡しの準備
買い手が見つかっても、すぐには不動産の引渡しはできません。
売り手は境界確定などの準備が必要になります。
境界を確定するためには、1~2ヶ月程度必要です。
他方、買い手が売買代金について金融機関へ融資を依頼する場合
手続きに1ヶ月程度かかります。
上記のとおり、不動産を売却するためには、不動産の売り出しから
2~6ヶ月程度は必要になります。相続税がどの程度課税されるのかを調べ
相続税を納めるために、どの不動産を売却するか決めておくなど
あらかじめ準備をしておく必要があります。
あわてて不動産を売却すると、市場価格を下回るなど
不本意な結果になりかねませんので注意しましょう。
遺産分割に関する民法改正の内容について
民法改正前は・・・
これまで、遺産分割については、相続開始(被相続人の死亡)時から
何年経過した後に行っても、分割方法に違いが生じなかったことから
早期に遺産分割の協議または請求をすることにつき
インセンティブが働きにくい状態でした。
しかし、遺産分割がされないまま相続が繰り返され
多数の相続人により遺産が共有されると、遺産の管理や処分が困難となり
そのような状態下で相続人の一部が所在不明となることが、所有者不明土地が生じる
原因の一つとなっていました。
そこで、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しとして
遺産分割に関する民法の規定が改正されることになりました。
改正のポイント①
改正の最も重要なポイントは、具体的相続分(※)による遺産分割に時的限界が設けられ
相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分ではなく
法定相続分によることになったことです。
すなわち、具体的相続分によれば、法定相続分による場合よりも
多くの財産を取得することができると考える相続人は
他の相続人が得た贈与が特別受益に該当する
あるいは自分が被相続人に行った労務等の提供が寄与分にあたると主張することになりますが
遺産分割の合意ができず、そのような具体的相続分に沿った遺産分割の審判を求める場合には
相続開始時から10年以内に、家庭裁判所に遺産分割請求を行うことが必要となります
(具体的相続分による遺産分割の合意は、相続開始時から10年を経過した後でも可能です)。
改正のポイント②
なお、上記改正部分の施行日は、令和5年(2023年)4月1日となっていますが
施行日前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても
改正法の適用がある点に留意する必要があります
但し、経過措置により、相続開始時から10年経過時または改正法施行時から
5年経過時のいずれか遅い時までに、遺産分割請求がされた場合には
具体的相続分による分割は可能とされていますので、少なくとも5年の猶予期間があります。
改正のポイント③
他にも、現行法では、遺産共有と通常共有が併存する場合において
共有関係を裁判で解消するには、地方裁判所等での共有物分割訴訟と
家庭裁判所での遺産分割請求を別個に実施する必要がありましたが
改正法では、相続開始時から10年を経過したときは
遺産共有関係の解消も共有物分割訴訟において実施することができるようになります。
また、相続により不動産が遺産共有状態となったものの
相続人の中に所在等の不明なものがいて、共有関係を解消できないようなケースについて
相続開始時から10年を経過したときは、裁判所の決定を得て
相当額の金銭を供託することにより
所在等不明共有者の不動産の持分を取得することができるようになります。
このように、改正法では遺産共有関係の解消の促進
円滑化、合理化が図られていますので、有効に活用されることが期待されます。
[相談]
ここのところ、雑誌等で贈与税の生前贈与分が相続時に取り込まれる
いわゆる“相続税と贈与税が一体化”されるような情報を目にするようになりました。
令和4年度の税制改正大綱が発表され、税制改正関連の法律が成立しましたが
改正項目として含まれたのでしょうか?
[回答]
令和4年度税制改正では、具体的な改正項目はありませんでした。
ただし、今後の税制改正にあたっての基本的な考え方の中で
「相続税・贈与税のあり方」としての方向性が示されました。
[詳細]
1.政府与党が公表した令和4年度税制改正大綱
2021年12月10日付で、政府与党が令和4年度税制改正大綱を公表しました。
この中で、今後の税制改正にあたっての基本的な考え方として
以下のとおり述べています。
相続税・贈与税のあり方: 高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに 相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており 結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。 高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。 一方、相続税・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っている。 高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば 格差の固定化につながりかねない。 このため、資産の再分配機能の確保を図りつつ 資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築していくことが重要である。 わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、 贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。 このため、将来の相続財産が比較的少ない層にとっては 生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で 相当に高額な相続財産を有する層にとっては 財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら 多額の財産を移転することが可能となっている。 今後、諸外国の制度も参考にしつつ 相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から 現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど 格差の固定化防止等の観点も踏まえながら 資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて 本格的な検討を進める。 あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は 限度額の範囲内では家族内における資産の移転に対して 何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について 格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。 2.資産移転時期の選択に中立的な税制 『資産移転時期の選択に中立的な税制』とは、どのような税制でしょうか。 この点については、2020年11月13日開催の第4回税制調査会内で 財務省が作成した説明資料が参考になります。 この資料の中で財務省は、「資産移転の時期の選択に中立的」とは “資産の移転の時期(回数・金額含む)にかかわらず、納税義務者にとって 生前贈与と相続を通じた資産の総額に係る税負担が一定となることをいう”と記しています。 具体的なイメージは、下図のとおりです。 出典:内閣府HP「説明資料〔資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について〕」 これによって、いつ贈与しても税負担は変わらない、というのが財務省の意見です。 特に暦年課税は、相続時に持ち戻されて相続税が課されるのは 死亡前3年以内の贈与分のみであって、それよりも前の暦年課税による贈与分は 持ち戻されず相続税は課税されません。この点について財務省は 資産移転の時期に中立的でないと示しています。 3.経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置 現状、経済対策として講じられている主な贈与税の非課税措置は、以下のとおりです。
これらの措置について、今後どういった見直しがされていくのか注視していきましょう。
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45万人が活用する贈与税の暦年課税
【1】暦年課税の申告者は45万人弱
相続対策として生前贈与を活用することがあります。
ここでは2021年6月に国税庁が発表した資料(※)から
暦年課税による贈与税の申告状況をみていきます。
(※)国税庁「令和2年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」
2021年(令和3年)6月に発表された資料です。
申告人員は2019年分と2020年分が翌年4月末まで
それ以前の年は翌年3月末日までに提出された申告書の計数です。
直近5年分の暦年課税(1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額(課税価格)から基礎控除額
(110万円)を控除した残額(基礎控除後の課税価格)について
贈与者と受贈者との続柄及び受贈者の年齢に応じて贈与税額を計算するもの)
の申告状況をまとめると、下表のとおりです。
2020年分の申告人員は44.6万人で前年と同程度となりました。
うち申告納税額有が35.1万人、申告納税額無が9.5万人です。
2018年分以降は申告納税額有が35万人台で推移しています。
申告納税額がある割合は78.7%で2年連続の低下となりました。
【2】申告納税額は2,000億円台で推移
2020年分の申告納税額は2,177億円で前年より増加し
3年連続で2,000億円を超えました。1人当たり申告納税額は62万円で申告納税額と同様
前年に比べ増加しました。
2018年分以降の申告納税額は、2017年分以前より高い水準で推移しています。
暦年課税を実行するにあたっては注意点等がございます。
また、贈与税の改正の動きにも注目が集まっています。ご留意ください。
相続登記の義務化等の施行日が決まりました
[質問]
相続登記の義務化がスタートすると聞きましたが
具体的に、いつから何が変わりますか?
[回答]
長年相続登記がされていないことにより
現在の所有者が不明となっている土地の問題を解消するために
不動産に関するルールの見直しがされ、今般、施行日が定められました。
相続登記に関連する改正については、以下のとおり施行(スタート)されます。
1.相続登記の義務化(令和6年4月1日施行) 相続や遺贈により不動産を取得した相続人は 自己のために相続の開始があったことを知り かつ、その所有権を取得したことを知った日から 3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。 施行日(令和6年4月1日)よりも前の相続開始の場合についても 適用されます。 令和6年4月1日よりも前に相続人として所有権を取得したことを 知っていた場合には、令和6年4月1日から3年以内に 相続登記の申請をしなければなりません。 また、遺産分割が3年以内に整わない場合は 3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記の申請でも可) を行った上で、遺産分割が成立した日から3年以内に その内容を踏まえた相続登記の申請をしなければなりません。 2.相続人申告登記(令和6年4月1日施行) ①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と ②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内) に登記官に対して申し出ることで、相続登記申請義務を履行したものと みなされます(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ 履行したことになります)。 この手続きは、所有権を取得したことを登記するものではありませんので 遺産分割が整った場合には、相続登記の申請が必要となります。 3.遺産分割に関する民法のルール変更(令和5年4月1日施行) 相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は 原則、具体的相続分(特別受益や寄与分を考慮した相続分)ではなく 法定相続分(又は指定相続分)によることとなります。 10年を経過した後であっても、相続人全員の合意があれば 具体的相続分による遺産分割(寄与分等を考慮して法定相続分と異なる分割をすること) を行うことは可能です。 4.その他 その他、主な改正の施行日は以下のとおりです。
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住宅取得資金の贈与 贈与者との関係
[相談]
マイホームを取得するために親族から受けた資金援助については
一定の金額まで贈与税がかからない特例があると聞いています。
私は年内にマイホームの取得を予定しており
その取得資金の一部について義父から援助を受ける予定です。
この場合、この特例は使えますか?
なお、義父と養子縁組はしていません。
[回答]
ご相談のケースにおける義父からの贈与は、マイホームを取得するための資金援助に係る贈与税の特例
「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例」は適用できません。
[詳細]
1.住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例
マイホームを取得するための資金援助に係る贈与税の特例
(住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例、以下、特例)は
様々な要件があります。そのうちの1つに贈与者と受贈者との間柄があります。
贈与者と受贈者との間柄(要件): 受贈者は、贈与を受けたときに贈与者の直系卑属であること |
2.直系尊属、直系卑属
直系尊属(卑属)の“直系”とは、自分を中心に縦の関係にある者をいいます。
(1)直系尊属
“尊属”は、自分を中心に上の者、つまり前の世代を指します。
よって直系尊属とは、自分からみて父・母・祖父・祖母などを指します。
(2)直系卑属
“卑属”は、自分を中心に下の者、つまり次の世代を指します。
よって直系卑属とは、自分からみて子・孫などを指します。
3.義父は直系尊属?
ご相談のケースは、“義父”からの贈与でした。
“義父”は、受贈者と養子縁組をしている場合を除き
受贈者からみて直系尊属には該当しません。
そのため特例の要件に該当せず、適用を受けることはできないことになります。
この“義父”との間の贈与については
暦年課税による贈与税の計算の際の贈与税率にも影響があります。
暦年課税による贈与税の計算の際の贈与税率は
『一般税率』と『特例税率』があり、特例税率の方が
『一般税率』に比べて税率が低い傾向にあるのが特徴ですが
“義父”との間の贈与は『一般税率』を適用することとなります。
なお、この特例を適用するための要件は、上記以外にもたくさんあります。
マイホームを取得するための資金贈与をお考えの場合には、ご留意ください。
障碍のあるご家族のためのサポート体制
今回は、障碍への法律におけるサポート体制として、「成年後見制度」や「任意後見契約」
「家族信託」について、会話形式でご紹介します。
Q1.
私たち夫婦の長男は知的障碍を持っています。私たち夫婦が元気なうちは私たちが
長男をサポートすることができますが、私たちが病気などでサポートを受ける立場に
なってしまったときに、長男のことをどのようにサポートをしていけば良いかわかりません。
何か良い方法はないのでしょうか。
A1.
いわゆる「親亡き後問題」ですね。とても悩ましい課題です。
ご両親の他にご長男様のサポートをお願いできる方がいらっしゃらない場合には
「成年後見制度」を活用することをご提案いたします。
家庭裁判所が選任した司法書士や弁護士が後見人として
お子様がお持ちの財産の管理や入院や介護施設入所時の手続きをすることで
ご長男様が今後生活で困ることがないようにサポートする制度です。
Q2.
そうなんですね。実は私たち夫婦には子供がもう一人おります。
5歳ほど年の離れた二男がいますので、私たちがサポートできなくなった場合には
二男に長男をサポートしてもらいたいと思っています。
成年後見制度だと、専門家が後見人になってしまい
後見人への報酬がかかると聞いていますので
できれば成年後見制度は避けたいです。
A2.
二男様がいらっしゃるのですね。成年後見制度でも
ご長男様のご資産の内容やご家族との関係性次第では二男様が後見人になる場合もあり得ますが
あくまで家庭裁判所の専権事項なので確実ではないですね。
その場合は、「任意後見契約」も検討してはいかがでしょうか。
ご長男様と二男様との間で財産の管理をお願いする契約を結ぶのです。
そうしておくと、いざご長男様の財産管理が必要になったときに
二男様が財産を管理することができます。
Q3.
なるほど。ただ、長男は重度の知的障碍のためコミュニケーションをとることができません。
そうなると任意後見契約は難しそうですね。他に良い方法はありますか。
A3.
はい、「家族信託」が方法として考えられると思います。
ご両親がお持ちのご資産のうち、ご長男様の生活のために残したいと思う財産について
二男様へ信託をするのです。そうすることで、最終的には二男様がご長男様のために
財産管理をする体制を構築することができます。
ご事情によって適切な手段は異なりますので、じっくりご検討ください。
遺言書のススメ
[相談]
私は先日夫を亡くしました。私には子がおらず、父母・祖父母はすでに他界しており
兄弟姉妹・甥姪もいないため、身寄りがありません。
私が亡くなったら、面倒を見てくれている亡夫の姪に財産を渡したいと思っていますが
どうすれば良いでしょうか。
[回答]
亡ご主人の姪御さんはあなたの法定相続人ではありません。
あなたには法定相続人がいないため、遺言書がない限りあなたの遺産は原則国庫に帰属します。
姪御さんにお世話になっていたり、今後お世話になったりなどの事情から
あなたが亡くなったあとに残った財産を姪御さんに渡したいときは
遺言書を作成されることを強くお勧めします。
[詳細解説]
法定相続人がいない(相続人不存在)場合、相続開始時から相続財産は法人となり
家庭裁判所によって選任された相続財産管理人が相続財産を管理し
相続人を捜索し、相続財産を精算する手続きを行うことになります。
あなたが亡くなったあと遺言がない場合でも、上記の一連の手続きで
姪御さんが療養看護に努めたことなどを以って、特別縁故者として相続財産の分与を家庭裁判所に請求し
認められれば相続財産の全部または一部を姪御さんが受け取ることができます。
ただし、姪御さんが確実に財産を受け取れる方法ではありません。
また、家庭裁判所の手続きが煩雑であり、時間もかかります。
姪御さんに遺贈する旨の遺言書を作っておくことが確実です。
遺言は、作成の方式を満たし、遺言の要旨が明らかであれば自筆証書であっても
公正証書であっても効力は同じですが、自筆証書による遺言は
法務局で遺言書の保管をしない限り家庭裁判所で検認の手続きが必要になります。
一方、公正証書による遺言は、検認の手続きが不要であることと
公証人が遺言者本人の遺言意思を確認して作ってくれることから遺言の要旨も明らかであるため
紛争が生じる恐れも少なくなります。
したがって、遺言をされる場合は、公正証書で作成されることをお勧めします。
その他ご参考までに、近年高齢の方たちが相続人になるケースで散見される相続の課題として
推定相続人に行方不明者や認知症の方がいる場合があります。
遺産分割協議は、全員が参加し、相続人のうち誰が
何を、どれだけ相続するかを話し合わなければ成立しません。
当事者の行方が分からない場合であっても、認知症で相続の意思を表明できない場合であっても
そのような相続人を含め、全員が参加する必要があります。
行方が分からない相続人がいるときは相続財産管理人に
認知症などで判断能力の不十分な相続人がいるときは
後見制度を利用し後見人にそれぞれ相続人の代理人になってもらい
遺産分割協議に参加してもらうことになります。
これらの制度は状況や事情によっては使えず、遺産分割が進められないこともあります。
このような相続関係が予想されるときは
遺言を作成して遺産分割協議の余地をなくすことが必要です。
相続登記の義務化等の施行日が決まりました
[質問]
相続登記の義務化がスタートすると聞きましたが、具体的に、いつから何が変わりますか?
[回答]
長年相続登記がされていないことにより、現在の所有者が不明となっている土地の問題を解消するために
不動産に関するルールの見直しがされ、今般、施行日が定められました。
相続登記に関連する改正については、以下のとおり施行(スタート)されます。
1.相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)
相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り
かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
施行日(令和6年4月1日)よりも前の相続開始の場合についても、適用されます。
令和6年4月1日よりも前に相続人として所有権を取得したことを知っていた場合には
令和6年4月1日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
また、遺産分割が3年以内に整わない場合は、3年以内に相続人申告登記の申出
(法定相続分での相続登記の申請でも可)を行った上で、遺産分割が成立した日から3年以内に
その内容を踏まえた相続登記の申請をしなければなりません。
2.相続人申告登記(令和6年4月1日施行)
①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と
②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで
相続登記申請義務を履行したものとみなされます
(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ履行したことになります)。
この手続きは、所有権を取得したことを登記するものではありませんので
遺産分割が整った場合には、相続登記の申請が必要となります。
3.遺産分割に関する民法のルール変更(令和5年4月1日施行)
相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は
原則、具体的相続分(特別受益や寄与分を考慮した相続分)ではなく
法定相続分(又は指定相続分)によることとなります。
10年を経過した後であっても、相続人全員の合意があれば
具体的相続分による遺産分割(寄与分等を考慮して法定相続分と異なる分割をすること)
を行うことは可能です。
4.その他
その他、主な改正の施行日は以下のとおりです。
- 相続土地国庫帰属制度(令和5年4月27日施行)
- 所有不動産記録証明制度(未定ですが令和8年4月までに施行)
- 住所等変更登記の義務化(未定ですが令和8年4月までに施行)
- 職権による住所等の変更登記(未定ですが令和8年4月までに施行)
姪を保険金受取人に指定できますか
[相談]
近所に住んでいる姪(以下、Aさん)に、日頃から私の生活の介助をしてもらっています。
私が死んだ後にお礼の意味も込めて、私が自らを被保険者として掛けている生命保険の
受取人になってもらおうと思うのですが、可能でしょうか。
可能であれば、この生命保険の受取人を子から変更をしようと思います。
何か問題があれば教えてください。
【生命保険の契約内容】
- 契約者(保険料負担者):私
- 被保険者:私
- 死亡保険金受取人:子
[回答]
- ご相談者の“姪”であるAさんを、受取人とすることは可能ですので
- 変更できるかと思いますが、念のため契約されている生命保険会社へ
- 事前に問い合わせていただくといいと考えます。
- なお、ご相談者の相続時には、この生命保険金は相続財産とみなされて
- 相続税の課税対象となります。
- その際に、仮にお子さん等が存命であれば、Aさんはご相談者の養子でなければ
- 相続人にはなれませんので、この生命保険金に係る非課税の適用を受けることができません。
- また、受取人変更に伴うトラブルにもご注意ください。
[詳細解説]
1.保険金の受取人
保険金の受取人となることができるのは、保険会社によって異なりますが
「被保険者の戸籍上の配偶者および二親等内の血族」の範囲内と定められていることが一般的です。
具体的には、被保険者からみて、祖父母、父母、子、兄弟姉妹、孫が該当します。
ご相談のケースでは、受取人としたいAさんが被保険者であるご相談者からみて
姪の立場であることから、受取人となることは可能だと考えます。
この受取人の指定は、加入時に契約者が行いますが
契約後も被保険者の同意を得て途中で変更することが可能です。
したがって、ご相談のケースでは受取人の変更も可能かと思われますが
念のため、契約された保険会社へ事前にお問合わせいただくといいと考えます。
なお、保険会社によっては、個別事情の詳細を報告することで
内縁関係にある者、婚約者、共同経営者等の指定を認める場合もあります。
上述の範囲外の人を指定したい場合は、個別に保険会社や取扱代理店などに確認が必要です。
2.税務上の取扱い
受取人を指定・変更する際は、受取人を誰にするかで
税務上の取扱いが変わることもあるため、注意が必要です。
例えば、契約者=保険料負担者=被保険者=被相続人の契約において
死亡保険金受取人が相続人の場合、受け取った死亡保険金は、相続税の計算上
死亡保険金の非課税(500万円×法定相続人の数)を適用できます。
他方、受取人が相続人以外の場合は、死亡保険金の非課税を適用することができません。
ご相談のケースでは、お子さんがいらっしゃるようですので
仮にお子さんが存命である中で相続が発生した場合には
Aさんがご相談者の養子にならなければ相続人となることはできません。
仮にAさんが相続人とならなければ、上記の非課税は適用できないことにご注意ください。
なお、受取人を変更されるのであれば、変更後の受取人となるAさんへの事前説明や
今回の生命保険についてお子さんが受取人だと知っている場合には
お子さんへの説明も同時にご検討ください。
特に、死亡保険金は相続税の課税財産となるため、相続税を計算する上で加算しなければならず
他の相続人にも当然知られます。
そうなることによって、親族間でのトラブルに発展する可能性も考えられるため
受取人の変更は慎重に検討されることをお勧めします。
賃貸人からの解約~賃貸借契約書がない場合
[相談]
築40年の貸家を相続しました。
当初から賃借人との間で賃貸借契約書は作成されておらず、一定の賃料が支払われているだけで
契約期間も定まっていません。また、賃料と保証金以外は把握しておらず
賃貸人に賃貸借契約を解約する権利があるか否かも分かりません。
私は、貸家から離れた場所にある持家に住んでおり、今後、自ら使用する予定はなく
建物の維持管理にも手間がかかるため、この貸家を売却したいと考えています。
貸家の立地は、交通利便性や住環境がよいため、売却額が高く見込める更地として売却したいのですが
そのためには、賃借人との間で賃貸借契約を解約し退去してもらう必要があります。
賃貸借契約書を作成していない場合でも、賃貸人が契約を解除することは可能でしょうか。
[回答]
建物の賃貸借においては、原則として借地借家法が適用され
下記詳細解説にある“正当事由”に該当しないため、賃貸人からの一方的な解約手続だけでは
解約合意の意思表示をしていない賃借人の退去は難しいと思われます。
仮に賃借人の退去を希望される場合は
立退交渉等について弁護士等にご相談をされることをお勧めします。
[詳細解説]
1.賃貸借契約とは
賃貸借は、民法第601条において、「当事者の一方がある物の使用及び収益を
相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び
引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって
その効力を生ずる」と規定されています。
つまり賃貸借契約は、この賃貸借について法的効果を生じさせる行為をいいます。
2.賃貸借契約書の有無による解約
民法では、売買契約は当事者の口頭による合意だけで成立するとされており
必ずしも書面(契約書)の作成は必要ではありません(民法第555条)。
これは賃貸借契約も同様で、賃貸借契約書がなく
口頭で取決めされた内容であっても、賃貸借契約の効力は有効です。
賃貸借契約書がある場合は、通常、契約期間が定められており
賃貸人が期間内に解約することができる旨の期間内解約条項がなければ解約はできません。
他方、賃貸借契約書がなく、口頭でも賃貸借の期間の定めがない場合に
民法では、当事者はいつでも3ヶ月の予告をもって
賃貸借契約を解約できるものと定められています(民法第617条)。
3.ご相談のケースの場合
今回は、上記2.の民法に従えば、賃貸借契約書がないため
当事者はいつでも3ヶ月の予告をもって、賃貸借契約を解約できるようにみえます。
しかし、賃貸借の期間内解約に関する
上記2.の民法の規定は、借地権者や建物の賃借人を保護する目的の借地借家法が
適用される場合には、特別法である借地借家法の規定が優先的に適用されることになります。
今回の賃貸借契約の場合は、借地借家法が適用されますので
民法の期間内解約の内容が、下記の通り修正されることになります。
- ①賃貸人による期間内解約の申入れは、6ヶ月の予告が必要であること(借地借家法第27条)。
なお、賃借人による期間内解約の申入れは、民法の規定に則り3ヶ月の予告で期間内解約ができます。
- ②建物賃貸借の解約申入れには、借地借家法第28条に定める正当事由が必要であること。
賃貸人側の正当事由としては、「賃貸人が居住する等の建物使用の必要があること」
- や「建物の老朽化による大規模修繕等の必要があること」等があげられます。
更地での売却を希望する等といった理由で、賃借人に退去を求めるという場合は - ただちに借地借家法に定める正当事由が認められるとは限りませんので
- 財産上の給付(立退料の支払い等)をすることで
- 正当事由の具備が認められるか否かが論点となってきます。
- つまり今回のご相談のケースで賃借人の退去を希望される場合は
- 立退交渉等について弁護士等にご相談をされた上で慎重に進めていかれることをお勧めします
- なお、弁護士法第72条に抵触するため、宅建業者が立退交渉を代理することはできませんが
- 請求の価格(立退料)が140万円以内であれば
- 法務大臣の認定を受けた司法書士が立退交渉を代理することは可能です。
このように、長年保有している財産を相続した場合
後から問題となるケースは少なくありません。相続は生前からの対策が重要です。
配偶者居住権等が設定された土地建物を相続した場合
[相談]
30年前、父が建売住宅を購入して、そこに家族で住んでいました。
弟はすでに独立し、長男である私は結婚後に、この家をリフォームして現在二世帯で暮らしています。
先月、父が死亡し、これから遺産分割協議をするのですが、母が死亡した後の相続を考えると
この家は母が存命の間に私が相続しておきたいと考えています。
とはいえ、母としても何かあったときにこの家から追い出されるのではないか
との懸念もあるようなので、配偶者居住権を設定しておきつつ
建物と土地は私が相続することでどうか、と提案したところ
母から了承を得ました。
弟には弟の相続分も考えて伝えたところ、母がいる手前か
概ね了承してくれています。
この相続によって相続税がいくらかかるのか試算したいのですが
仮に私がこの土地建物を相続した場合、相続税評価額はどうやって計算するのでしょうか?
[回答]
まず、建物部分については、建物全体の相続税評価額から
配偶者居住権の価額を控除した金額が相続税評価額となります。
土地部分も同じく、土地全体の相続税評価額から敷地利用権の価額を
控除した金額が相続税評価額となります。
なお、土地部分については一定の要件を満たした場合
小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
[詳細]
1.配偶者居住権・敷地利用権とは
配偶者居住権とは、被相続人の所有する建物に相続開始時点で配偶者が居住していた場合に
相続後も配偶者がそのままその建物に無償で住み続けることができる権利です。
この配偶者居住権を配偶者が相続等により取得した場合
その配偶者居住権に基づき使用する敷地の権利も付随して
配偶者が相続等により取得したものと考えられています。
この配偶者居住権に基づき使用する敷地の権利を、敷地利用権といいます。
2.配偶者居住権等が設定された土地建物を相続した場合
ご相談のケースで、お父様(以下、被相続人)が所有していた
居住用の土地建物について、配偶者居住権・敷地利用権(以下、配偶者居住権等)
を設定した上で相続した場合の相続税評価額は
それぞれ次の算式により計算します。
建物の相続税評価額:建物全体の相続税評価額 - 配偶者居住権の価額 土地の相続税評価額:土地全体の相続税評価額 - 敷地利用権の価額 |
いずれも
まずは配偶者居住権等の価額を計算した上で控除することとなる点にご留意ください。
なお、土地については、小規模宅地等の特例の要件を満たした場合には
小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。その点もあわせてご注意ください。
賃貸住宅と電気自動車用の充電設備
[相談]
賃貸住宅の大家業を営んでいます。今回、新たに賃貸住宅を建築することになったのですが
付加価値を高めるためEV(電気自動車)用の充電設備を設置することを業者から勧められています。
しかし、EVの普及はそれほど進んでいないようにも思われ、
なによりも設置費用がかかるのでどうしようか迷っています。
賃貸住宅に電気自動車用の充電設備を設置することのメリットとデメリットを教えてください。
[回答]
「EV」というと純粋にバッテリーの電気だけで走る車をイメージしがちですが
広い意味では「ハイブリッド自動車(HV)」、「プラグインハイブリッド自動車(PHV)」
「燃料電池自動車(FCV)」も「EV」に含まれます。
このため、純粋にバッテリーの電気だけで走る自動車を「BEV(Battery Electric Vehicle)
」ということもあります。これらのうち、外部の充電設備を必要とするものが「BEV」と「PHV」です。
この「BEV」と「PHV」ですが、現時点での普及率は両者を合わせても1%強に過ぎず
我が国でエコカーといえば「HV」が代名詞という状況が続いています。
これは「BEV」と「PHV」の車種が国産車ではコンパクトカーやセダンタイプ
外国車では高級車に限られるため消費者が選択できる車種が少ない一方
「HV」はコンパクトカーから売れ筋のミニバンやSUVまで幅広い車種が揃っているという
商品選択上の理由という側面もありますが
なによりも住宅事情が大きいものと思われます。
一戸建て住宅であれば、最近では大手ハウスメーカーを中心に
EV用の200Vのコンセントが標準装備となるなどEVと親和性が高いのですが
既存の分譲マンションの場合は、管理組合の同意が必要となり充電器を設置するハードルが高く
新築でも充電設備を設置している分譲マンションはまだまだ少数です。
賃貸住宅の場合も、借主が設置を希望しても結局は家主次第ということになります。
したがって、人口が多く共同住宅の比率が高い大都市部では
住宅事情により「BEV」や「PHV」に乗りたくても乗れないという人も多く
結果的に普及の足かせとなっています。
現状のように「BEV」や「PHV」の普及が進んでいないなかで
ご質問にある新たな賃貸住宅に充電設備を導入するメリットとデメリットは以下のように考えられます。
(メリット)
- ①現時点でEV用の充電設備を導入している賃貸住宅は少ないので
- BEVやPHVを所有する入居希望者に対してはアピールポイントとなる。
- ②設置の際、国などの補助金を活用できる可能性がある。
(デメリット)
- ①現在の「BEV」や「PHV」の普及率では、充電設備を設置したとしても
- 使用を希望する入居者がなかなか現れず、費用倒れになる可能性がある。
- ②誰がどれだけ電力を使用したかの把握に工夫が必要となるとともに
- 使用料を徴収するための手間とコストがかかる。
国も共同住宅における充電設備の増加が「BEV」や「PHV」の普及の鍵と考えているようですし
電力事業者なども設置者の負担にならない形での導入を促進する施策を講じるようになっています。
賃貸住宅は今後20年、30年と稼働を続けるものですし
なによりも大切なことは長期間に渡って入居率を維持し、物件の価値を保っていくことです。
そのなかでEV用の充電設備の導入がそれにどう資するのか。
それは、立地や入居者のターゲットにより異なってきます。
したがって、自身が建てられる物件の特性をよく分析された上で導入の是非を判断されるのがよいのではないでしょうか。
未登記の建物を相続した場合
[相談]
相続した実家の建物が登記されていないことが分かりました。
建物が登記されていない理由は何が考えられるのでしょうか。
また、そのまま登記しない場合、何か問題はありますか?
[回答]
建物の未登記の要因としては、
“登記は任意である”と誤った認識をお持ちであった
という可能性が考えられます。
また、未登記の状態であると、法律上の問題の他、第三者への対抗などで
デメリットが生じると考えます。
[詳細解説]
1.建物の未登記
建物を建築等した場合には、主に以下①→②の順に登記を行います。
- ①建物表題登記:建物の構造・床面積等の物理的状況を明らかにする登記
- ②所有権保存登記:所有権の登記のない不動産について、最初に行う所有権の登記
- ①は、不動産登記法により、その建物の所有権を取得してから1ヶ月以内に
- 登記を行わなければならないと定められており、登記を行う必要があります。
- 他方、②は、①のように義務ではなく任意となりますが、
- 住宅ローンを利用する場合は、金融機関が当該建物に抵当権を設定するため
- ②の登記が必須となります。
したがって、建物が未登記の理由の一つとしては、住宅ローンを利用せず建物を建築したため
②の登記が任意となり、①の登記も行う必要がないといった誤った認識のもと
未登記の状態になっていることが考えられます。実際、未登記建物は数多く存在します。
なお、登記されていない建物は、「未登記建物」といわれています。
2.未登記建物であることでの問題点
(1)法律上の問題
未登記建物であることの問題については、法律上の義務である上記1.
①の建物表題登記がなされていない
厳密にいえば罰則が科せられる可能性がある状態であることとなります。
また、相続による所有権の移転登記や住所変更登記に関しては
法律で義務付けられる改正がなされています。その点もあわせてご注意ください。
(2)第三者への対抗
未登記建物であると、その建物の所有について第三者へ主張することが困難です。
(3)税務上の問題
建物が未登記であるということは、その建物が建っている敷地部分に
建物がない状態で固定資産税が課税されている可能性が考えられます。
通常、土地の上に住宅が建っている場合の当該土地に係る固定資産税は
更地である状態よりも軽減措置が設けられています。
3.未登記建物の登記手続き
相続した未登記建物を第三者へ売却する際、上記1.①及び②の登記が必須となります。
将来の売却を予定されている場合は、予め登記しておくとよいでしょう。
なお、上記1.①には、登録免許税は課税されませんが
上記1.②の登記には課税(固定資産税評価額の4%)されますので、ご注意ください。
また、この登記手続きは、通常、土地家屋調査士もしくは司法書士
(以下、専門家)に依頼しますが、ご自身で行うことも可能です。
なお、専門家に依頼される場合は、建築当時の設計図面などがあれば
費用を軽減できる可能性がありますので
設計図面の有無について、事前に確認されるとよいでしょう。
建物全体が未登記であることの他、増築や改築部分が登記されていないこともあります。
建物が登記されている場合でも、建築当時の設計図面があれば
現状と比較し、増築や改築による未登記部分が生じていないか確認されるとよいでしょう。
未登記建物を相続された場合は、専門家に相談の上、適切に対処されることをお勧めします。
相続した実家を売却したい
[相談]
親が亡くなり、実家を相続することになりました。私には持ち家があり
住む予定もないため、売却する予定です。実家は築後50年を経過し定期的な修繕も行っていないため
現状のまま利用することは困難です。
こうした場合、家屋を取り壊してから売却した方がよいのでしょうか?
[回答]
利用困難な建物が土地上に建っている場合でも、基本的には「建物解体更地渡し」の条件付きで
古家付きのまま販売を開始することが多いです。
[詳細解説]
1.固定資産税の軽減措置
古家付きのまま販売を開始する理由の一つは
固定資産税(都市計画税含む。以下同じ)の住宅用地(住宅の敷地)に対する軽減措置です。
固定資産税は、毎年1月1日現在の所有者に課税されますが、住宅用地の場合
固定資産税の計算の基礎となる課税標準額は、たとえば面積200㎡以下の小規模住宅用地であれば
固定資産税評価額(価格)の6分の1(都市計画税は3分の1)に軽減されます。
そのため建物を取り壊し更地の状態で1月1日を迎えた場合
住宅用地の軽減措置の対象外となり、固定資産税は大幅に増加します。
実務的には、不動産取引の現場では、古家付きの土地の場合は
「建物解体更地渡し」の条件付きで販売し、売買契約締結後に
建物を取り壊して更地の状態で買主へ引き渡すことが通例になっています。
ただし、早い段階で更地にした方が売りやすくなる場合もありますので
販売状況や1月1日までの期間を見計らいながら
更地の状態で販売するために、前倒しで建物の解体を行うこともあります。
2.空き家の3,000万円特別控除
建物が昭和56年5月31日以前に建築されているなど一定の要件を充たすことで
“空き家の3,000万円特別控除”といわれる税制措置が利用できる可能性があります。
この制度の利用により税負担を軽減することができますので
譲渡所得が発生する場合は、税制措置の利用可否について
事前に確認されることをお勧めします。
遺産分割協議中に相続人が他界。不動産登記はどうなる?
相続人が一人なら、そのまま承継可能