相続財産の寄附と相続税の取扱い
[相談]
父の相続財産の一部を寄附しようと思います。
寄附先は、父が生前お世話になっていた有料老人ホームを経営している社会福祉法人です
実は生前、父から「自分が亡くなった後にA銀行の定期預金を寄附してほしい」
と口頭で伝えられていました。
ただし、遺言書などはありません。
実際に寄附を行った場合、相続税は軽減されるのでしょうか?
[回答]
ご相談のケースで寄附を行う場合、一定の条件を満たせば
寄附の対象となるA銀行の定期預金について相続税の計算から外すことができ
相続税が軽減されます。
[詳細]
1.相続人の意思による寄附
自分が亡くなったら財産を寄附する、という場合には
「どこ(誰)へ、何を(いくら)寄附する」という意思表示を
正式な遺言書という形で遺す必要があります。
今回のご相談のケースでは、お父様の遺言書はないとのことですから
お父様の遺志で寄附することはできません。
このような場合には、一度相続の手続を行って相続した後
相続人から寄附をする、という手続になります。
例えご本人が生前に「寄附したい」と周囲の方に伝えていても
相続人にその意思がなければ寄附は実行されません。
2.相続税の取扱い
相続財産を寄附した場合に以下の要件をすべて満たすと
寄附した財産について相続税の対象としない特例があります。
- ①寄附した財産が、相続や遺贈によって取得した財産であること
(相続財産を換金した後の現金を寄附した場合などは、対象となりません。) - ②相続税の申告期限までに、相続した財産を寄附すること
(相続日から10ヶ月後の応答日までに寄附をしなければなりません。) - ③寄附先が、国、地方公共団体、その他教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる特定の公益法人であること
(特定の公益法人の範囲は、独立行政法人や社会福祉法人などに限定されており - 寄附時点ですでに設立されている必要があります。
- 該当するか否かは事前に寄附予定先へお問合せください。)
ご相談のケースにおいて、上記要件をすべて満たすと
寄附をした相続財産(A銀行の定期預金)を相続税の対象から外すことができます。
3.その他の留意点
ご相談のケースの場合は、相続人からの寄附となるため
寄附をした相続人の所得税の計算上
寄附金控除または税額控除の適用を受けられるかどうか検討しましょう。
適用については、寄附先である社会福祉法人が適用できる対象先でなければなりません。
この点についても、事前に寄附先の社会福祉法人へお問合せいただくとよいでしょう。
なお、上記2.や3.の適用をする場合には、申告時の手続が必要となります。
財産評価における誤りやすい事例/相当の地代を支払っている場合の借地権の価額
財産評価の処理における誤りやすい項目について
大阪国税局が作成した「資産課税関係 誤りやすい事例 財産評価関係 令和2年分」より
ピックアップしてご紹介します。
今回は、「取引相場のない株式(純資産価額方式)」における
相当の地代を支払っている場合の借地権の価額についてです。
誤った取扱い
被相続人は、所有するA土地を甲社(被相続人が同族関係者となっている同族会社)
に相当の地代を収受して貸し付けていた。
甲社株式の評価において、A土地に係る借地権について
資産の部への計上は不要とした。
正しい取扱い
株式の評価をする場合において
被相続人が同族関係者となっている同族会社に相当の地代を収受して
土地を貸し付けている場合
自用地としての価額の20%に相当する額を借地権の価額として
資産の部に計上する
(昭43直資3-22「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」、地代相当通達6(注))
出典:大阪国税局「資産課税関係 誤りやすい事例 財産評価関係 令和2年分」
遺産分割前における預貯金の払戻し制度
[相談]
父が先日亡くなり、私が喪主として葬儀を執り行い、葬儀費用も負担しましたが
相続人間での遺産分割協議は時間がかかりそうです。
父の預金で葬儀費用の負担分を賄いたいと考えていますが
「相続人全員で遺産分割協議が成立しなければ、故人の預貯金は凍結され、引き出すことはできない」
と聞きました。
遺産分割協議が成立するまで預貯金の引き出しは全くできないのでしょうか?
[回答]
ご相談の通り、金融機関が預貯金の名義人の死亡を知ることにより
故人の預貯金の口座の入出金は停止、凍結され、故人の預貯金は
相続の手続きが終わるまで基本的に動かすことができなくなります。
しかし、このことにより、相続人が過大な負担を強いられたり
迅速な被相続人の債務の弁済に支障を生じたりすることがあるため
令和元年7月1日施行の改正民法で仮払い制度が創設されました。
当面の費用を必要とする各相続人への簡易迅速な払戻しのため、遺産分割が確定する前でも
他の相続人の同意を得ることなく被相続人の預貯金を引き出すことができようになりました(民法909条の2)。
これにより各相続人は、相続預貯金のうち口座ごとに以下の計算式で求められる額については
家庭裁判所の判断を経ずに、金融機関から他の相続人の同意なしで払戻しを受けることができます。
ただし、同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)
からの払戻しは150万円が上限になります。
(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)
<計算例>
普通預金720万円の場合、法定相続分2分の1の相続人(配偶者)への払戻額
720万円×1/3×1/2=120万円 < 150万円
払戻限度額 120万円
なお、これらの制度により払い戻された預貯金は、後日の遺産分割において
調整が図られることになります。
この制度の利用を考えられた場合は、金融機関へのご相談又は お近くの弁護士などの専門家へご相談をお願いいたします。
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45万人が活用する贈与税の暦年課税
【1】暦年課税の申告者は45万人弱
相続対策として生前贈与を活用することがあります。
ここでは2021年6月に国税庁が発表した資料(※)から
暦年課税による贈与税の申告状況をみていきます。
(※)国税庁「令和2年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」
2021年(令和3年)6月に発表された資料です。
申告人員は2019年分と2020年分が翌年4月末まで
それ以前の年は翌年3月末日までに提出された申告書の計数です。
直近5年分の暦年課税(1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額(課税価格)から基礎控除額
(110万円)を控除した残額(基礎控除後の課税価格)について
贈与者と受贈者との続柄及び受贈者の年齢に応じて贈与税額を計算するもの)
の申告状況をまとめると、下表のとおりです。
2020年分の申告人員は44.6万人で前年と同程度となりました。
うち申告納税額有が35.1万人、申告納税額無が9.5万人です。
2018年分以降は申告納税額有が35万人台で推移しています。
申告納税額がある割合は78.7%で2年連続の低下となりました。
【2】申告納税額は2,000億円台で推移
2020年分の申告納税額は2,177億円で前年より増加し
3年連続で2,000億円を超えました。1人当たり申告納税額は62万円で申告納税額と同様
前年に比べ増加しました。
2018年分以降の申告納税額は、2017年分以前より高い水準で推移しています。
暦年課税を実行するにあたっては注意点等がございます。
また、贈与税の改正の動きにも注目が集まっています。ご留意ください。
相続登記の義務化等の施行日が決まりました
[質問]
相続登記の義務化がスタートすると聞きましたが
具体的に、いつから何が変わりますか?
[回答]
長年相続登記がされていないことにより
現在の所有者が不明となっている土地の問題を解消するために
不動産に関するルールの見直しがされ、今般、施行日が定められました。
相続登記に関連する改正については、以下のとおり施行(スタート)されます。
1.相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)
相続や遺贈により不動産を取得した相続人は 自己のために相続の開始があったことを知り
かつ、その所有権を取得したことを知った日から
3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
施行日(令和6年4月1日)よりも前の相続開始の場合についても 適用されます。
令和6年4月1日よりも前に相続人として所有権を取得したことを 知っていた場合には、令和6年4月1日から3年以内に
相続登記の申請をしなければなりません。
また、遺産分割が3年以内に整わない場合は 3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記の申請でも可)
を行った上で、遺産分割が成立した日から3年以内に
その内容を踏まえた相続登記の申請をしなければなりません。
2.相続人申告登記(令和6年4月1日施行) ①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と ②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)
に登記官に対して申し出ることで、相続登記申請義務を履行したものと
みなされます(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ
履行したことになります)。
この手続きは、所有権を取得したことを登記するものではありませんので 遺産分割が整った場合には、相続登記の申請が必要となります。
3.遺産分割に関する民法のルール変更(令和5年4月1日施行) 相続開始から10年を経過した後にする遺産分割は 原則、具体的相続分(特別受益や寄与分を考慮した相続分)ではなく
法定相続分(又は指定相続分)によることとなります。
10年を経過した後であっても、相続人全員の合意があれば 具体的相続分による遺産分割(寄与分等を考慮して法定相続分と異なる分割をすること)
を行うことは可能です。
4.その他 その他、主な改正の施行日は以下のとおりです。
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姪を保険金受取人に指定できますか
[相談]
近所に住んでいる姪(以下、Aさん)に、日頃から私の生活の介助をしてもらっています。
私が死んだ後にお礼の意味も込めて、私が自らを被保険者として掛けている生命保険の
受取人になってもらおうと思うのですが、可能でしょうか。
可能であれば、この生命保険の受取人を子から変更をしようと思います。
何か問題があれば教えてください。
【生命保険の契約内容】
- 契約者(保険料負担者):私
- 被保険者:私
- 死亡保険金受取人:子
-
[回答]
- ご相談者の“姪”であるAさんを、受取人とすることは可能ですので
- 変更できるかと思いますが、念のため契約されている生命保険会社へ
- 事前に問い合わせていただくといいと考えます。
- なお、ご相談者の相続時には、この生命保険金は相続財産とみなされて
- 相続税の課税対象となります。
- その際に、仮にお子さん等が存命であれば、Aさんはご相談者の養子でなければ
- 相続人にはなれませんので、この生命保険金に係る非課税の適用を受けることができません。
- また、受取人変更に伴うトラブルにもご注意ください。
[詳細解説]
1.保険金の受取人
保険金の受取人となることができるのは、保険会社によって異なりますが
「被保険者の戸籍上の配偶者および二親等内の血族」の範囲内と定められていることが一般的です。
具体的には、被保険者からみて、祖父母、父母、子、兄弟姉妹、孫が該当します。
ご相談のケースでは、受取人としたいAさんが被保険者であるご相談者からみて
姪の立場であることから、受取人となることは可能だと考えます。
この受取人の指定は、加入時に契約者が行いますが
契約後も被保険者の同意を得て途中で変更することが可能です。
したがって、ご相談のケースでは受取人の変更も可能かと思われますが
念のため、契約された保険会社へ事前にお問合わせいただくといいと考えます。
なお、保険会社によっては、個別事情の詳細を報告することで
内縁関係にある者、婚約者、共同経営者等の指定を認める場合もあります。
上述の範囲外の人を指定したい場合は、個別に保険会社や取扱代理店などに確認が必要です。
2.税務上の取扱い
受取人を指定・変更する際は、受取人を誰にするかで
税務上の取扱いが変わることもあるため、注意が必要です。
例えば、契約者=保険料負担者=被保険者=被相続人の契約において
死亡保険金受取人が相続人の場合、受け取った死亡保険金は、相続税の計算上
死亡保険金の非課税(500万円×法定相続人の数)を適用できます。
他方、受取人が相続人以外の場合は、死亡保険金の非課税を適用することができません。
ご相談のケースでは、お子さんがいらっしゃるようですので
仮にお子さんが存命である中で相続が発生した場合には
Aさんがご相談者の養子にならなければ相続人となることはできません。
仮にAさんが相続人とならなければ、上記の非課税は適用できないことにご注意ください。
なお、受取人を変更されるのであれば、変更後の受取人となるAさんへの事前説明や
今回の生命保険についてお子さんが受取人だと知っている場合には
お子さんへの説明も同時にご検討ください。
特に、死亡保険金は相続税の課税財産となるため、相続税を計算する上で加算しなければならず
他の相続人にも当然知られます。
そうなることによって、親族間でのトラブルに発展する可能性も考えられるため
受取人の変更は慎重に検討されることをお勧めします。
相続した実家を売却したい
[相談]
親が亡くなり、実家を相続することになりました。私には持ち家があり
住む予定もないため、売却する予定です。実家は築後50年を経過し定期的な修繕も行っていないため
現状のまま利用することは困難です。
こうした場合、家屋を取り壊してから売却した方がよいのでしょうか?
[回答]
利用困難な建物が土地上に建っている場合でも、基本的には「建物解体更地渡し」の条件付きで
古家付きのまま販売を開始することが多いです。
[詳細解説]
1.固定資産税の軽減措置
古家付きのまま販売を開始する理由の一つは
固定資産税(都市計画税含む。以下同じ)の住宅用地(住宅の敷地)に対する軽減措置です。
固定資産税は、毎年1月1日現在の所有者に課税されますが、住宅用地の場合
固定資産税の計算の基礎となる課税標準額は、たとえば面積200㎡以下の小規模住宅用地であれば
固定資産税評価額(価格)の6分の1(都市計画税は3分の1)に軽減されます。
そのため建物を取り壊し更地の状態で1月1日を迎えた場合
住宅用地の軽減措置の対象外となり、固定資産税は大幅に増加します。
実務的には、不動産取引の現場では、古家付きの土地の場合は
「建物解体更地渡し」の条件付きで販売し、売買契約締結後に
建物を取り壊して更地の状態で買主へ引き渡すことが通例になっています。
ただし、早い段階で更地にした方が売りやすくなる場合もありますので
販売状況や1月1日までの期間を見計らいながら
更地の状態で販売するために、前倒しで建物の解体を行うこともあります。
2.空き家の3,000万円特別控除
建物が昭和56年5月31日以前に建築されているなど一定の要件を充たすことで
“空き家の3,000万円特別控除”といわれる税制措置が利用できる可能性があります。
この制度の利用により税負担を軽減することができますので
譲渡所得が発生する場合は、税制措置の利用可否について
事前に確認されることをお勧めします。
事業用資産の買換特例(面積制限5倍)
事例
甲市の自社ビル(土地40㎡と建物)を売却して、乙市で土地を800㎡取得しました
800㎡の土地の内訳は
X氏から取得した600㎡(10万円/㎡)
Y氏から取得した200㎡(20万円/㎡)
です。この場合、買換特例の適用対象となる土地とその価額はいくらですか
結論
X氏から取得した土地のうち150㎡(1500万円)
Y氏から取得した土地50㎡(1000万円)が買換資産となります
解説
買換え特例の適用に当たって、買換えにより取得した土地の面積が
譲渡した土地の面積の5倍を超える場合には、5倍を超える面積については
適用対象外となります
また、買換資産に該当する土地等を2以上取得してその合計面積が
制限面積を超える場合には以下の通りとなる
甲市の土地・・・40㎡
X氏から取得した土地・・・600㎡×10万円=6000万円・・・A
Y氏から取得した土地・・・200㎡×20万円=4000万円・・・B
以上のような場合の買換資産の取得価額の合計金額は
(A+B)×40㎡×5倍/(X氏600㎡+Y氏200㎡)=2500万円
その場合、X氏から取得した土地のうち特例適用対象は
40㎡×5倍×X氏600㎡/X氏600㎡+Y氏200㎡=150㎡
150㎡×10万円=1500万円
さらに、Y氏から取得した土地のうち特例適用対象は
40㎡×5倍×Y氏200㎡/X氏600㎡+Y氏200㎡=50㎡
50㎡×20万円=1000万円
事業用資産の買換特例の手続き(翌年買換えと先行取得)
質問
特定の事業用資産の買換えの特例を受ける場合の手続きについて教えてください
回答
・所得税確定申告書の「特例適用条文」欄に「措置法第37条」と記入する
・確定申告書に次の書類を添付する
- ①譲渡所得計算明細書
- ②登記事項証明書など買換資産の取得を証する書類
- ③譲渡資産や買換資産が特定の地域内にある旨等の市町村等の証明書
(この証明書は必要が無い場合もある)
翌年買換の場合
資産を譲渡した譲渡した日の属する年の翌年中に買換資産を取得する見込みであり
かつ、 その取得の日から1年以内に事業の用に供する見込みの場合は
確定申告書に買換え予定資産の取得価額の見積額等を記載した書類を添付しなければならない
なお、このような場合は、上記②の書類は買換資産の取得後4カ月以内に提出しなければならない
先行取得の場合
譲渡した年の前年以前に取得した資産を買換資産としてこの特例の適用を受けるためには
取得した年の翌年3月15日までに『先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書』
を提出しなければりません