相続人が海外に居住する場合の小規模宅地等の特例の適用可否
[相談]
- 下記案件で、小規模宅地の特例が適用できるかどうか
- ご教示ください
- ・被相続人は国内居住で、被相続人に配偶者はいない(本件相続発生前に死別)
- ・本件相続財産は、被相続人の居住の用に供されていた国内の土地、建物、現金など
- ・相続人は1名のみ(被相続人の子)で、その相続人に配偶者はいない
- ・相続人は15年以上海外に居住し、海外の企業(相続人と特別の関係はない)が
- 所有する賃貸不動産に居住している
- (相続人の国籍は日本。また、相続人は過去に居住用家屋を一度も所有したことはない)
- ・本件相続開始時から相続税申告期限まで、継続して上記の土地建物を所有する(見込み)
-
[回答]
- ご相談の場合、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の
- 適用を受けられるものと考えられます。詳細は下記解説をご参照ください。
[解説]
相続税法上の小規模宅地等の特例とは
個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、その相続の開始の直前において
その相続若しくは遺贈に係る被相続人又はその被相続人と生計を一にしていた
その被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で
一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているもので
一定のものがある場合には、その相続又は遺贈により
財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち
その個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部で
この規定の適用を受けるものとして一定の方法により選択をしたもの
に限り、相続税の課税価格に算入すべき価額は
その小規模宅地等の価額にその小規模宅地等の区分に応じた一定の割合
(※2)を乗じて計算した金額とする、という制度です。
※1 特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等については、330㎡
※2 特定居住用宅地等である小規模宅地等については、20%
2.特例対象宅地等の要件
上記1.の特例対象宅地等とは、相続開始の直前において
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、一定の区分に応じ
それぞれ一定の要件に該当する被相続人の親族が相続または
遺贈により取得したものをいいます。
その具体的な要件は、その宅地等が被相続人の居住の用に供されていたものであり
かつ、その宅地等の取得者がその被相続人の配偶者又は相続開始の直前において
その被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でない場合には
次のとおりとなります。
- ①居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと
- ②被相続人に配偶者がいないこと
- ③相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた
- 家屋に居住していた被相続人の相続人がいないこと
- ④相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者
- 取得者の3親等内の親族または取得者と特別の関係がある
- 一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと
- ⑤相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前の
- いずれの時においても所有していたことがないこと
- ⑥その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
したがって、今回のご相談の場合、本件土地は上記要件を満たすことから特例対象宅地等に該当し
相続人は小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けられるものと考えられます。
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度と暦年課税の基礎控除との併用可否
[相談]
私はこのたび、住宅を新築することとなりました。
それにあたって、両親からその新築費用の一部の贈与を受ける予定です。
そこでお聞きしたいのですが、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の
贈与税の非課税制度と、贈与税の暦年課税の基礎控除(110万円)の規定は
併用できるのでしょうか。
[回答]
ご相談の非課税制度は、暦年課税の基礎控除と併用可能です。
[解説]
1.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度の概要
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税とは
令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に、直系尊属(自分の両親、祖父母など)
からの贈与により住宅取得等資金の取得をした特定受贈者(※1)が
一定の要件(※2)に該当するときは、原則として
その贈与により取得をした住宅取得等資金のうち住宅資金非課税限度額
(最大1,000万円(※3))までの金額については、贈与税の課税価格に算入しない
(=贈与税が非課税になる)という制度です。
- ※1 特定受贈者とは、直系尊属から贈与により財産を取得した個人のうち
- 住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の1月1日において18歳以上であって
- その年分の所得税法上の合計所得金額が2,000万円
- (住宅取得等資金を充てて新築等をした住宅用家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満である場合には、1,000万円)
- 以下である人をいいます。
- ※2 特定受贈者が、贈与により住宅取得等資金の取得をした日の属する年の
- 翌年3月15日までにその住宅取得等資金の全額を住宅用家屋の新築等のための対価に
- 充ててその住宅用家屋の新築等をした場合等において、同日までに新築等をした
- 住宅用家屋をその特定受贈者の居住の用に供すること等が要件となります。
- ※3 住宅資金非課税限度額は、特定受贈者ごとに
- その住宅用家屋が省エネ等住宅である場合には1,000万円
- それ以外の住宅用家屋である場合には500万円と定められています。
2.贈与税の基礎控除額との併用可否
贈与税額は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与により取得した財産の価額を合計して
「課税価格」を計算し、さらに、その課税価格の合計額から110万円(贈与税の暦年課税の基礎控除額)
を差し引いた金額に対して一定の贈与税率を乗じて計算した金額の合計額となります。
上記の贈与税の基礎控除額(110万円)の規定と
上記1.の直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度の規定は
併用可能ですので、例えば、上記1.の住宅取得資金非課税限度額が500万円である場合には
基礎控除額110万円とあわせた610万円まで贈与税非課税となります。
[参考]
相法21の5、措法70の2、70の2の4、70の2の5、措令40の4の2など
成年年齢引き下げに伴う相続税の改正~未成年者控除の改正~
[相談]
相続人が未成年者の場合、「未成年者控除」として満20歳に達するまでの年数に応じた
一定の金額を相続税額から控除してもらえると聞いています。
2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられましたが
この「未成年者控除」はどうなるのでしょうか?
[回答]
成年年齢の引き下げにあわせて、「未成年者控除」が適用できる
年齢や控除額の計算が改正されました。
[詳細]
1.未成年者控除とは
相続人が未成年者である場合には、相続税の額から一定の金額を控除します。
この控除を「未成年者控除」といいます。
未成年者控除を適用できるのは、次のすべての要件を満たす人です。
- (1)相続又は遺贈により財産を取得した法定相続人
- (日本国籍を有していない人など、一定の人は対象外です。)であること
- (2)上記(1)の法定相続人とは、相続の放棄があった場合には
- その放棄がなかったものとした場合における相続人であること
- (3)上記(1)の法定相続人は、その相続又は遺贈により財産を取得したときに未成年者であること
上記(3)の「未成年者」の年齢が2022年3月までは「20歳未満」でした。
これが、民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い
未成年者控除における「未成年者」の年齢も2022年4月から「18歳未満」に引き下げられました。
2.未成年者控除額
未成年者控除額は、以下の算式により計算します。
【控除額】 10万円×成年に達するまでの年数(1年未満切上) |
「成年」とは、2022年3月までは「満20歳」でした。
これが、2022年4月からは民法の成年年齢にあわせて「満18歳」に改正されました。
つまり、2022年4月からの控除額の計算は、以下の通りとなります。
【控除額】 10万円×満18歳に達するまでの年数(1年未満切上) |
3.適用開始時期
この改正は、2022年4月1日以後の相続又は遺贈から適用されます。
4.留意点
未成年者控除については、未成年者本人の相続税額より
控除額が大きくなり引ききれない場合があります。
この場合には、その引ききれない部分をその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引きます。
今回の改正により、単純計算で控除額が最大20万円(2年×10万円)
減少することとなりますので
このような引き切れない部分を差し引ける金額も当然少なくなることが予想されます。
孫養子などで未成年者を相続人とした場合に有効活用してきたこの未成年者控除について
今般の改正点を改めてご確認ください。
なお、すでに未成年者控除の適用を受けたことがある場合には
一定の控除限度額の計算があります。その点もご留意ください。
過去に税額計算をシミュレーションされた方は見直されるとよいでしょう。
賃貸マンションの相続税評価額を巡る裁判
東京高等裁判所で、評価額を巡る裁判で国が勝訴
相続税の申告書に計上していた賃貸マンションの評価額を巡って
相続人と国が争っていた裁判で、東京高等裁判所は国税庁長官の指示による
評価を認め、控訴人である相続人の控訴を棄却しました(2021年4月27日)
事実の概要
被相続人(父)は生前に相続税の圧縮効果を検討していて、平成25年6月に
銀行から15億円を借入て高級賃貸マンションを取得した。
父親の相続開始後に、相続人(長男)はこの賃貸マンションを財産評価基本通達に
基づき4億8000万円で評価したうえで相続税の申告を行った
しかし、国はこの申告に関して本件不動産の評価額は10億4000万円(鑑定評価額)
であるとして、相続税の更正処分を行ったところ争いとなった
相続人の主張
〈相続人の主張①〉
本件更正処分は,国民の租税に対する予測可能性を著しく失わせる不当なもの。
租税法律主義の趣旨に反し行政庁の裁量の範囲を著しく逸脱するものである。
〈相続人の主張②〉
評価通達の定めによる評価額と実際の取引価格との間に乖離がある例は多数存在し
乖離の存在は一般的な現象である
〈相続人の主張③〉
相続に際し、節税対策をとることは当然であり被相続人が節税目的で本件不動産を購入したとしても
そのことが「特別の事情」を基礎づけるものではない。
被相続人が本件不動産を購入したのは不動産賃貸業の一環であり相続税対策のためではない。
東京高等裁判所の判断
上記①②③の主張に対して東京高等裁判所は以下のように判断しました
〈東京高裁の判断①〉
租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかな場合についてまで
評価通達の定めにより評価すべきものではない、そのような場合について評価通達の定めによらないで
個別に財産を評価したとしても租税法律主義に違反するということはできない。
被相続人は,相続税を減少させる目的で本件不動産を相続開始時の直前に15億円で購入しているのであるから
評価通達の定めによる評価額と現実の取引価格との間に著しい乖離があることは十分認識していたというべきであり
現実の取引価格によって課税されることについて予測可能性がなかったということはできない。
〈東京高裁の判断②〉
本件不動産の通達評価額は、鑑定評価額の2分の1にも達しておらず、金額にして5億円以上も少ないから
その乖離の程度は著しいといわざるを得ない。
このような著しい乖離の存在が一般的であると認めることはできない。
〈東京高裁の判断③〉
被相続人が相続税の圧縮を認識し、これを期待して15億円を借り入れ本件不動産を購入したことは
租税負担の実質的な公平という観点から見た場合、通達評価額によらないことが相当と認められる
「特別の事情」を基礎づける事実に当たるというべきである。
被相続人らは,銀行の担当者と相続税の負担軽減の方法について相談し
その方策として、本件不動産を購入することになった経緯を踏まえると
本件不動産の購入が相続税対策のためであったことは明らかである。
まとめ
本件では
①通達評価額と鑑定評価額との間に著しいかい離が生じていること
②相続税の負担減少を認識・期待して本件不動産が購入されたことから
評価通達の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができないなど
租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであるといえるような「特別の事情」がある
と判断したようです
その結果本件不動産の時価は、鑑定評価額に基づく10億4,000万円となると判断しました
本件は現在、敗訴した相続人から最高裁に上告及び上告受理の申立てが行われています。
最高裁の判決が楽しみです