<事例>
A社代表取締役B氏の相続税申告に当たって、A社の株価評価を
実施する必要があります。資産を精査していると財産評価でひとつだけ
問題が発生しました。
A社の本社は、第三者と賃貸借契約を締結しているオフィスビルの1室に
あります。
A社は、オフィスの利用に当たってA社の負担で内装工事の模様替え
付帯設備の改修工事を行いました。
A社の決算書には、上記工事の未償却残高が建物付属設備として
4000万円計上されています。
上記建物付属設備は、賃借したオフィスビルの一部を構成するモノであり
その追加工事部分だけを独立して取引の対象となる経済的価値は
ありません。
さて、上記のような場合でA社株式の評価を純財産額法で計算する
にあたって、上記建物付属設備の未償却残高4000万円は株価にどのように
影響を与えるでしょうか?
<解説>
結論から申し上げますと、上記の建物付属設備4000万円は
A社の株価算定上は、A社の財産として認識しない場合がありうるという
ことです
まず、上記建物付属設備4000万円をA社財産として認識するかどうか
という論点の前にA社が賃貸借契約をしている借家権そのもののが
客観的交換価値のある財産であるかどうかを検討する必要があります
そもそも財産評価基本通達94但し書きには
「ただし、この権利が権利金等の名称をもって取引される慣行のない
地域にあるものについては、評価しない。」と定めています
特殊な地域を除いては、一般的には借家権そのものを客観的交換価値
のあるものとして取引する慣行がなく、相続財産として評価する対象と
なりません。
さらに、A社の決算書に計上される建物付属設備4000万円は
会社の期間損益計算の適正化のために、未償却残高が計上されている
にすぎず、その建物付属設備に4000万円の交換価値は無いと
考えるのが一般的です。
また、建物の賃借人が賃借中の建物に付属設備の工事を行った場合
その付属設備の所有権は建物所有者に帰属することになります
(民法第242条 「不動産の所有者は、その不動産に従として付合
した物の所有権を取得する。)
したがって、賃借人は付属設備の経済価値について賃貸人に対して
償還請求権を所得することになるようです(民法608条)
ただし、一般的には上記償還請求権も建物の賃貸借契約書の中で
放棄している場合が多いようです。
上記より、賃借人であるA社が上記償還請求権を賃貸借契約書の
中で放棄していない場合には、上記償還請求権が債権として
A社の株価に影響を及ぼしますが
償還請求権を放棄している場合で、借家権そのものを
取引する慣行の無い地域であれば、建物の付属設備4000万円は
A社の株価算定上は、貸借対照表から除外することができます。
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