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相続税、節税に役立つブログ

2016.01.09

老朽化した工場を移転する場合の立退料と借地権の問題

<質問>

今回移転予定の老朽化した工場は、当社の会長所有の土地に建っています。

契約当初は会長に対して相当の地代を支払っていましたが、

10年以上は地代の改訂を行っていません。

工場周辺の土地の時価はこの10年で倍以上に上昇しています。

現在の会長所有の当該土地の路線価評価額は2億円で借地権割合は60%です。

なお会長と当社の土地賃貸借契約の締結に当たって無償返還の取り決めが

明記されていましたが、所轄税務署に対して届出は行っていませんでした。

今回の工場移転に伴って、立退き料の必要はないと考えていますが

いかがでしょうか。

また、相当地代よりも低い地代を支払っていることについて、

借地人である当社及び地主である会長に課税上問題はありますか。

さらに前期より会長の健康状態が悪化していて工場移転までに

相続が開始する可能性も考えられます。

その場合、当社の決算書に借地権を計上する必要はあるでしょうかご教示ください。

<回答>

借地権の設定時にその対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の

慣行のある地域において、当該権利金の支払に代え、当該土地の自用地として

の評価額に対しておおむね年6%程度の地代[1]を支払っている場合は、

当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱います。

しかし、会長との不動産賃貸借契約後に土地の時価が倍以上に上昇している

にもかかわらず地代の改訂を行っていないのであれば、

自然発生借地権が借地人に帰属することになります。

このような状況で借地の返還に当たって借地権の価額に相当する立退料を

授受する取引上の慣行があるにもかかわらず、その額の全部又は一部に

相当する金額を収受しなかった場合には、原則として通常収受すべき借地権の

対価の額又は立退料等の額と実際に収受した借地権の対価の額又は

立退料等の額との差額に相当する金額について課税の問題が発生します。[2]

つまり地主は本来立退料を支払うべきですが、支払わずに済んだ場合は

その経済的利益を借地人である会社から無償で受けたことになります。

今回のような同族会社とその会長という特別な関係の場合には会長に

対して認定賞与の問題が発生します。

さらに借地人である法人には役人賞与の損金不算入の課税関係[3]

が発生することになります。

そもそも借地権を無償で返還するのは、一般的な取引とは言えないため、

支払うべき立退料があったものとして上記のような課税関係が

発生することになります。

しかし立退料の授受がない場合でも以下のような合理的な理由がある場合には、

上記のような課税関係が発生しないとされています[4]。

①借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが

定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること[5]。

②土地の使用の目的が、単に物品置場、駐車場等として土地を更地のまま使用し、

又は仮営業所、仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用するものであること。

③借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、

借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情が生じたこと。

上記の合理的理由を今回の事例に当てはめると、借地権の設定時に借地を無償で

返還する旨を不動産賃貸借契約書に明記していますが、所轄税務署に届出を行っていないため、

①は該当しないと考えます。今回の事例のように老朽化した工場を移転する場合

③の理由が該当すると考えられます。

建物の朽廃により借地権が消滅することを認めた国税不服審判所の裁決事例[6]もあります。

以上より、今回の事例では相当の地代の改訂を行っていなかったために、

自然発生借地権が借地人に帰属するため立退料の授受が本来は必要ですが、

老朽化した工場の移転という合理的な理由のために、

立退料の授受がなくても課税上も問題は発生しないと考えます。

次に地代の改訂を行っていないことについて借地人である法人と地主である会長に

関する課税上の問題ですが、何ら問題ないと考えます。

借地人である法人については、相当の地代を下回る地代を支払うことによる

経済的利益については、既に毎期の決算で法人税が課税されているので問題ありません。

一方で、地主である会長は、相当の地代と実際の地代との差額を不動産所得に

加算すべきとも考えられますが、個人については使用貸借も認められるので、

課税上問題ありません。

さらに、このような状態で会長の相続が開始した場合、

借地権が設定されている土地について、支払っている地代の額が相当の地代の額に

満たない場合の当該土地に係る借地権の価額は個別通達[7]に定める方法に

従って計算した借地権の価額を控除した評価額とします。

一方で、借地人の借地権の評価は地主の底地の評価額と表裏の関係ですが、

借地人である法人の決算書に借地権を計上する必要はありません。

相続開始時に地主名義の土地を評価するにあたって、借地権相当額を控除するのは

相続税の評価上の問題です。借地人である法人は、地主である会長の相続開始が

あったとしても、借地権という資産を計上する根拠にならないからです。

仮に相続開始の事業年度で借地権を資産計上した場合でも、

借地権相当額の評価益は益金不算入の処理をします。

[1]「以下(相当の地代)」個別通達『相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて』1
[2]基本通達13-1-14前段
[3]会長と同族会社という特別な関係でない場合には、地主に対しては一時所得課税、借地人である法人には寄付金課税の問題が発生します。
[4]基本通達13-1-14後段
[5]いずれも基本通達13-1-7に定めるところによりその旨が所轄税務署長に届け出られている場合に限ります
[6]裁決年月日昭和48年 8月8日『借地権の期間の定めのない工場建物について、工場移設後に旧工場は全く保守されなかったことから老朽化がすすみ、廃屋同様の状態になったことが認められ借地権は消滅したものと認めることができる。』
[7]個別通達『相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて』4及び2

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